抄録 |
【目的】本シンポジウムでは、1990年より実施したコホート研究から得られた肝疾患の自然史、肝外病変の病態、死因、治療介入、予後因子、医療連携の実態と住民の医療認識に関する知見、福岡県の方策を紹介する。九州X町(成人人口約7,400名、HCV抗体陽性率23.6%)で実証した主な内容は以下の通りである:(1)女性はHCV自然排除率が高く、肝障害も少ない(2)肝癌死・肝硬変死に関する独立因子はALT値異常とHCV持続感染である(3)扁平苔癬等の種々の肝外病変はHCV感染者に高率で、発症にはインスリン抵抗性が関連する(4)12年間のコホート研究による肝炎ウイルス感染者の肝病態と治療法の問題点(5)HCVと潜在性HBVの重複感染と肝発癌。【方法】方法1:2005年10月より全国に先駆けて、IFN治療が普及しない原因を探るためにX町在住のHCV感染住民及びその担当医師双方にアンケート調査を実施した(254組)。方法2:12年間のコホート研究より、低アルブミン血症が生存率に寄与するかどうかを検討した。【成績】結果1:IFN治療が推奨された139組において、肝臓専門医が常勤する病院では86.0%の患者が、非肝臓専門医の診療所では34.0%の患者が、各々治療を受諾した。ロジスティック回帰分析の結果、通院先、性別及び合併症が患者のIFN治療の諾否に影響を与えた(各オッズ比18.06, 3.65, 3.63)。年齢や肝病態の進展度は治療の諾否に影響しなかった。結果2:12年間の経過観察が行えた454名において、低アルブミン血症の住民25名は有意に死亡率が高く(68%)、肝癌死亡者が多かった。住民死亡に関わる因子は、50歳以上・低アルブミン血症・AST値異常・喫煙歴・非アルコール摂取であった(各オッズ比20.65, 10.79, 2.58, 2.24, 2.08)。【結論】IFN治療を適切に普及するために、専門医と非専門医間で医療連携の仕組みを整備し、コミュニケーションの質の向上を図るための施策を考えることが不可欠である(Med Sci Monit 2008)。高齢化が進む中で、低アルブミン血症の改善は生命予後の改善に寄与する(Virol J 2010)。 |