抄録 |
【目的】胃がん検診において今後は超高齢化社会に対応した体制および、ピロリ菌非感染者発がんに対する工夫が鍵となる。とくに高齢者における抗血小板、抗凝固療法施行率は年々増加傾向にあり、出血のリスクを伴う内視鏡下生検を補足するような新たな低侵襲的手法は重要である。また、若年齢層のピロリ菌感染率低下に伴い、ピロリ感染に関連しない新たな胃がんリスク診断法も重要なポイントである。我々は、胃癌におけるDNAのメチル化異常がジェネティックな異常より高頻度に認めることに注目し、通常内視鏡観察時に破棄する胃洗浄廃液(非侵襲的手法)を用いてピロリ菌感染および胃粘膜萎縮に影響されない新たな分子マーカーの同定に成功したので報告する。【方法】早期胃がん内視鏡治療前後に発生する胃洗浄廃液より抽出したDNAを用いた。テストセット6症例を用いMCAM (Methylated CpG Island Amplification Microarray) 法により、早期胃がん診断に有効な候補遺伝子を選出。検証セット64症例を用い、候補遺伝子メチル化異常をESD前後で比較検討した。【成績】テストセットを用いたMCAM解析で、有意に治療前後に差があった18プローブ(18/36,579)、11遺伝子(11/9,021)を早期胃がん特異的メチル化候補遺伝子として選出。その中でもとくに有意差を認めた遺伝子(BARHL2)に注目した。胃がん細胞株による検討ではBARHL2遺伝子のメチル化異常による遺伝子不活化および過剰発現によるコロニーの増殖抑制も確認した。BARHL2遺伝子メチル化は、検証セットでも治療前後に有意な差を認め(BARHL2, p<0.0001)、ピロリ菌感染および非感染胃がん症例間に差を認めなかった(BARHL2, p=0.82)。【結論】BARHL2遺伝子メチル化異常を用いた早期胃がん胃洗浄廃液診断は非ピロリ感染における胃がん診断にも有用な可能性を持っており、超高齢化社会を迎える我が国において、抗血小板剤・抗凝固薬を使用する機会の多いなか、非侵襲的な検査であるという面からも期待できる検診法と考えられた。 |