セッション情報 シンポジウム8(消化器病学会・肝臓学会・消化器がん検診学会合同)

NASHからの発癌:基礎と臨床

タイトル 肝S8-7:

p62/Nrf2遺伝子二重欠損マウスは脂肪性肝炎を自然発症し肝腫瘍を発生する

演者 蕨 栄治(筑波大大学院・環境分子生物学DELIMITER筑波大大学院・スポーツ医学)
共同演者 岡田 浩介(筑波大大学院・スポーツ医学), 正田 純一(筑波大大学院・スポーツ医学)
抄録 【目的】転写因子Nrf2は生体の酸化ストレス応答に重要な役割を果たし,Nrf2遺伝子欠損マウス(Nrf2-null)では食餌誘発脂肪性肝炎の発症と進展が促進される(AJP2010, JG2012).一方,p62はNrf2下流の酸化ストレス誘導蛋白であり,p62遺伝子欠損マウス(p62-null)は過食肥満,耐糖能異常,高血圧,脂肪肝を発症する.我々はp62とNrf2の二重遺伝子欠損マウスを作製したところ,通常食の摂取により脂肪性肝炎を自然発症し,さらに,一部の高齢マウスでは肝腫瘍を発生することが明らかとなった.今回は,本マウスの形質に関する解析を行った.【方法】野性型マウス(WT),Nrf2-nullマウス,p62-nullマウス,p62/Nrf2遺伝子二重欠損 (double knockout; DKO) マウスの4種について,若年(8週齢)から高齢(62週齢)までの期間における肝病理組織と血液生化学を経時的に解析した.【結果】WTおよびNrf2-nullマウスは観察期間において肥満,耐糖能異常,脂肪肝,肝腫瘍は認められなかった.p62-nullマウスは約20週齢から肥満と耐糖能異常が出現し,32週齢からは脂肪肝を認めた.さらに,50週齢から62週齢では軽度の炎症細胞浸潤が出現したが,肝腫瘍は認められなかった.一方,DKOマウスはp62-nullマウス同様に肥満と耐糖能異常が出現し,32週齢では肝に炎症細胞浸潤および線維化が出現し脂肪性肝炎像を呈した.また,50から62週齢の高齢のDKOマウスでは線維化が進行し,更に肝腫瘍(肝腺腫および肝細胞癌)の発生を認めた(50週齢 3/30匹,62週齢3/24匹). 【結語】p62/Nrf2遺伝子二重欠損マウスは脂肪性肝炎を自然発症し,その一部には肝腫瘍が発生した.NASHからの肝発癌のプロセスには,肥満と耐糖能異常に加えて酸化ストレス応答障害の存在が重要であると考えられた.本マウスはヒトNASHに類似すると考えられ,今後のNASH発症および発癌のメカニズムを解析する上で有用である.
索引用語 NASH, 肝腫瘍