セッション情報 シンポジウム8(消化器病学会・肝臓学会・消化器がん検診学会合同)

NASHからの発癌:基礎と臨床

タイトル 肝S8-8:

小胞体ストレス軽減によるNASH肝発癌抑制-NASH発癌モデルマウスを用いた検討-

演者 今 一義(順天堂大・消化器内科)
共同演者 池嶋 健一(順天堂大・消化器内科), 渡辺 純夫(順天堂大・消化器内科)
抄録 【目的】NASHが肝発癌に至るメカニズムは不明な点が多く、予防法も確立されていない。これまでに我々は、化学シャペロンの4-フェニル酪酸(PBA)がトランス脂肪酸+フルクトース誘導の脂肪肝に対して小胞体ストレスを減少させ、肝細胞のアポトーシスを抑制することを示した。そこで本研究では、NASH肝癌モデルマウスを用いて4-PBAの肝発癌に対する効果を検討した。【方法】出生後数日の雄性C57Bl6Nマウスに対してN-アセチル-β-D-グルコサミ二ダーゼ阻害剤を投与し、その後高脂肪食で飼育してNASH肝癌マウスを作成した(NASH-BL6N)。8週齢のNASH-BL6Nに対してPBA (120 mg/kg)もしくは生理食塩水(PSS)を8週間連日投与して、その影響を見た。対照群として、通常食を摂取させた無処置のC57BL6Nマウスを用いた。Sirius Red染色で肝線維化を評価し、eIF2αのリン酸化およびGRP78の発現をウエスタンブロットで定量し小胞体ストレスを評価した。【成績】NASH-BL6NのPSS投与群の肝臓には肝腫瘤が多発性に出現し、肝組織上は著明な大滴性脂肪化、小葉内炎症細胞浸潤、Zone3の肝細胞周囲の線維化を認め、ヒトのNASHに酷似した病理像を呈した。肝線維化の面積比は2.4±0.4%で、対照群の1.1±0.1%と比較して有意に増加していた。肝腫瘍(直径2mm以上)の数は13±2個で、個々の肝臓の腫瘍の最大径は6.4±0.7mmであった。これに対し、PBAによって処置したNASH-BL6Nの肝組織では肝線維化が1.4±0.1%と有意に減少した。また、腫瘍の個数は3±0個に、腫瘍の最大径は4±0.4mmにいずれも有意に減少した。eIF2αのリン酸化およびGRP78はPSS群の肝臓で対照群と比較して有意に増加し、PBA投与によっていずれも有意に減少した。【結論】NASH-BL6NマウスはヒトのNASH肝発癌に酷似した病態を呈したが、PBAにより小胞体ストレスが減少し、肝線維化および肝発癌が抑制された。化学シャペロンによる小胞体ストレス軽減がNASH肝発癌の抑制に有効である可能性が示された。
索引用語 小胞体ストレス, NASH肝癌