セッション情報 シンポジウム8(消化器病学会・肝臓学会・消化器がん検診学会合同)

NASHからの発癌:基礎と臨床

タイトル 肝S8-12追:

非アルコール性脂肪性肝炎を基盤とした肝癌症例の臨床的特徴

演者 佐藤 智佳子(山形大・消化器内科)
共同演者 渡辺 久剛(山形大・消化器内科), 上野 義之(山形大・消化器内科)
抄録 【背景と目的】近年、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を背景とする肝癌の実態はまだ不明な点が多い。そこでNASHが原因と考えられる肝癌症例の背景因子を非肝発癌NASH例と比較し、NASH発癌例の臨床的特徴を検討した。【方法】1995年から2011年までに当科で肝癌の治療を行ったNASH例6例(肝癌群)と年齢をマッチさせた非肝発癌NASH症例18例(NASH群)の背景因子の比較を行った。【成績】平均年齢は肝癌群74歳、NASH群69.9歳で差はなかった。男女比は肝癌群5:1、NASH群3:15と、肝癌群で有意に男性が多かった(p<0.01)。肝癌群では4例が組織学的に肝硬変であり、NASH群には肝硬変症例は認めなかった。また、肝予備能は全例Child-Pugh A、ICG15分値の平均は25%であった。平均腫瘍径は23.8 mm、個数は単発が4例、2個が2例、単発の症例のうち1例は骨転移を有していた。病理組織像は4例が中分化型肝癌であった。両群の臨床背景をみると、糖尿病の合併は肝癌群が6例(100%)で、NASH群の9例(50%)より、有意に多かった(p<0.05)。BMIは両群で差を認めず、メタボリック症候群の合併率やリスクファクター数にも差を認めなかった。血液生化学検査では、ALTの中央値は肝癌群では52.5 IU/Lで, NASH群の84 IU/Lより低値であり(p=0.07)、PLT数は肝癌群で低い傾向がみられた。HbA1cは肝癌群で7.0%と、NASH群の5.7%よりやや高い傾向がみられた(p=0.14)。HOMA-IR、インスリン値は両群で差はなかった。HBV既往感染例は肝癌群4/5例(80%)、NASH群4/13例(30.8%)で有意差はないが、肝癌群に多かった(p=0.09)。【結論】NASH発癌例は、男性に多く、肝硬変、糖尿病の合併が高頻度にみられた。また、HBV既往感染例が多く、HBVの発癌への関与が示唆された。一方、BMIやメタボリック症候群のリスクファクター、インスリン抵抗性は非発癌NASH例と同様であった。NASHの診療にあたっては、NASH症例の拾い上げと啓蒙普及活動、および糖尿病外来との診療連携を十分行っていくことが今後の課題と考えられた。
索引用語 NASH, 肝癌