抄録 |
【背景】過敏性腸症候群(IBS)は,慢性・反復性の腹痛,不快感,便通異常にもかかわらず,器質的疾患を認めない機能性消化管障害である.近年,IBSの病態として脳腸相関を介しストレスにより増悪することが知られており,薬物治療の他,心理的治療などの治療が試みられているが,オンデマンドな治療選択の報告は未だ少ない.今回,交感神経活動の指標とされる心拍変動係数をIBSの病型と自律神経機能の関連について検討し,治療方法選択に応用後の効果を比較検討した.【方法】糖尿病性自律神経障害や不整脈の併存を認めないRomeIII基準を満たすIBS患者32名を対象とした.パルスアナライザーを用い,座位での安静状態5分間、起立負荷5分間測定した.心拍数,心拍変動の低周波成分(LF),高周波成分(HF),および心拍変動係数(CVR-R)を算出し,LF/HFを自律神経バランス(交感神経の指標),CVR-R・HFを副交感神経の指標,CVR-Rを自律神経活動の変動とした.これらの値を健常者と各病型のIBS患者で比較検討した.次に、LF/HF高値下痢型IBS患者を薬物治療単独群および薬物治療・自律神経訓練治療併用群の2群で治療後の症状変化を比較検討した.【結果】IBS患者で,安静時LF/HFの高値または不安定な心拍数を53%に認め,CVR-Rの増加を38%認めた.下痢型IBS患者ではLF/HF高値を68%,CVR-R増加42%と他病型に対し有意に多かった.立位負荷後では,63%で心拍数変動が過大であり,下痢型IBS患者の立位負荷後のCVR-RはGSRS-IBSと有意な逆相関を認めた.CVR-R・HFの反応亢進,低下および乱れをIBS患者において22%認めた.LF/HF高値の下痢型IBS患者への薬物治療・自律神経訓練治療併用群が薬物治療単独群に対し有意に早期の症状改善を認めた.【結論】IBS患者,特に下痢型IBS患者で安静時交感神経優位の傾向があり,立位負荷で異常反応を示した.自律神経異常を示すIBS患者では,薬物治療・自律神経訓練を併用することでより良い治療効果を得た.自律神経機能異常が,IBSの病態に関与している可能性が示唆され,自律神経の状態を把握することでより細かい治療選択が可能であると考えられた. |