セッション情報 シンポジウム10(肝臓学会・消化器病学会・消化器外科学会合同)

肝発癌・進展機序研究に与える幹細胞学のインパクト

タイトル 消S10-1:

幹細胞マーカーアルデヒド脱水素酵素1(ALDH1)の肝癌における解析

演者 鈴木 英一郎(千葉大大学院・腫瘍内科学)
共同演者 千葉 哲博(千葉大大学院・腫瘍内科学), 横須賀 收(千葉大大学院・腫瘍内科学)
抄録 【目的】アルデヒド脱水素酵素1(ALDH1)は、乳癌などの固形腫瘍において癌幹細胞マーカーとして機能し、癌組織中のALDH1の発現レベルが高い症例では、予後不良であることが知られている。正常肝臓においてもALDH1は幹/前駆細胞マーカーとして報告されているが、肝癌におけるALDH1の機能については不明な点が多い。そこで今回、肝癌培養細胞より純化したepithelial cell adhesion molecule (EpCAM)陽性細胞のloss-of-function assayを行うとともに、肝癌手術標本を用いた臨床病理学的検討を行った。【方法】肝癌培養細胞(Huh1およびHuh7細胞)のALDH1に対するshort hairpin RNAの安定発現株を作成し、フローサイトメトリーを用いてEpCAM陽性細胞を分離・回収した後に、増殖能とsphere形成能を評価した。また、49症例の肝癌手術標本を用いてALDH1の免疫染色を行い、臨床病理学的検討を行った。さらに一部の症例では、癌幹細胞マーカーEpCAM、CD13との二重免疫染色を試みた。【成績】ALDH1のノックダウンにより、肝癌細胞のEpCAM陽性分画の増減はなく、またEpCAM陽性細胞の増殖活性および造腫瘍活性の変化もみとめられなかった。肝癌手術標本では、非癌部ではほぼ均一に瀰漫性にALDH1の発現(軽度~中等度)をみとめたのに対して、癌部では、ALDH1を過剰発現している腫瘍細胞が種々の頻度でみとめられた。そこで、これらの細胞の存在頻度が10%未満のものをALDH1-low HCC、10%以上のものをALDH1-high HCCに分類した。ALDH1-high HCCはALDH1-low HCCに比べて、AFP値が低く(P<0.01)、組織学的に高分化型肝癌を多くみとめるとともに(P=0.03)、術後再発率が低い傾向がみとめられた(P=0.08)。ALDH1-high HCCにおける二重免疫染色では、いずれの症例においてもEpCAM陽性細胞はみとめられず、またALDH1とCD13の発現に明らかな相関はみとめられなかった。【結論】肝癌において、ALDH1は幹細胞マーカーではなくむしろ分化マーカーとして機能し、良好な予後を示すバイオマーカーとなる可能性が示唆された。
索引用語 ALDH1, 肝癌