セッション情報 シンポジウム10(肝臓学会・消化器病学会・消化器外科学会合同)

肝発癌・進展機序研究に与える幹細胞学のインパクト

タイトル 消S10-3:

肝癌幹細胞の多様性と進化

演者 山下 太郎(金沢大附属病院・消化器内科)
共同演者 本多 政夫(金沢大附属病院・消化器内科), 金子 周一(金沢大附属病院・消化器内科)
抄録 【目的】近年正常組織と同様に幹細胞性を有する癌細胞(癌幹細胞)が同定され、癌治療標的として重要視されている。本研究で我々は代表的な肝癌幹細胞マーカーであるCD133、CD90、EpCAM陽性細胞について検討を行い、各細胞の存在様式について検討を行った。【方法】肝細胞癌におけるCD133、CD90、EpCAMの遺伝子、蛋白発現状態をMicroarray、qRT-PCR、FACSならび免疫組織化学にて解析、NOD/SCIDマウスでの腫瘍形成能を評価した。細胞の非対称分裂についてはtime-lapse imageを用いて解析を行った。AFP陽性肝細胞癌患者から分離された異なる3クローンを用い、幹細胞マーカーの発現、腫瘍形成能、核形解析を行った。【成績】肝細胞癌ではEpCAM陽性細胞を約30%に、CD133陽性細胞を約15%に、CD90細胞を100%に認め、EpCAMは上皮系細胞、CD90は間葉系細胞に発現、それぞれに異なる腫瘍形成転移能力、薬剤感受性を示した。EpCAM、CD90陽性細胞は肝癌のステージ進行に伴い陽性率が上昇、剖検症例を用いた検討では原発巣と転移巣では幹細胞マーカーの発現が異なる症例が認められた。培養細胞および外科切除標本を用いた検討では、幹細胞マーカー陽性細胞は陰性細胞から新規に出現する場合があり、特に5-FU投与により出現することが明らかになった。核形解析からEpCAMとCD90陽性細胞は共通のクローンを祖先に有するものの、それぞれに特異的な融合染色体を有し、クローンの進化が肝癌幹細胞の出現に寄与している可能性が考えられた。【結論】肝癌では特有の細胞形質を有する異なる肝癌幹細胞が症例によって異なって存在し、染色体変化や遺伝毒性により幹細胞マーカーの発現が変化していくことが明らかになった。このような現象は癌細胞の可塑性に深く関わっている可能性が高く、肝癌幹細胞は単一で静的な存在ではなく環境や染色体変化によって大きく進化していく細胞集団と考えられた。
索引用語 肝細胞癌, 癌幹細胞