セッション情報 シンポジウム10(肝臓学会・消化器病学会・消化器外科学会合同)

肝発癌・進展機序研究に与える幹細胞学のインパクト

タイトル 外S10-4:

幹細胞の機能的特性を基盤とした肝癌のニッチ解析と臨床的意義

演者 田中 真二(東京医歯大・肝胆膵・総合外科)
共同演者 村松 俊輔(東京医歯大・肝胆膵・総合外科), 有井 滋樹(東京医歯大・肝胆膵・総合外科)
抄録 【目的】幹細胞の機能的特性の一つはdormancyの維持であり、核酸合成、蛋白回転などの代謝活性や、活性酸素種(reactive oxygen species; ROS)濃度が低く保たれている。一方、癌細胞は一般に代謝活性が高いが、最近 乳癌、肺癌、脳腫瘍などに代謝活性が低い細胞分画が存在し、癌幹細胞の特徴を呈することが報告されている。我々は代謝活性を可視化するシステムを構築し、癌幹細胞の機能的特性を検証し、肝癌の微小環境(ニッチ)形成および臨床的意義を解析したので報告する(Gastroenterology, in press)。【方法】代謝活性低下を蛍光可視化するシステムを構築し(Gdeg)、ヒト肝癌細胞に導入して、細胞動態をイメージング解析した。さらに、細胞内ROS濃度の蛍光マーカーを用いて細分画を解析し、生体内動態、網羅的遺伝子発現、肝癌臨床検体の解析を行なった。【成績】ヒト肝癌細胞の5-10‰に、代謝活性低下したGdeghigh分画が存在した。タイムラプス細胞解析の結果、Gdeghighの非対称性分裂によってGdeglowが生じること、Gdeghighの増殖は緩徐であるがGdeglowは急速に対称性分裂して増殖することを確認した。Gdeghigh細胞では細胞内ROS濃度は低く維持されており、GdeghighROSlow細胞は高い腫瘍形成能を示した。さらに、DNAマイクロアレイ解析によりGdeghighROSlow肝癌細胞に発現する特徴的な遺伝子シグネチャーを同定し、宿主細胞の動員に関与することをin vitroに証明した。GdeghighROSlow肝癌細胞は高い転移能を持ち、その周囲には宿主細胞が集簇することを見出した。肝癌臨床検体の解析により、肝癌幹細胞の遺伝子シグネチャーが肝癌早期再発と有意に相関することが明らかとなった。【結論】幹細胞がもつ機能的特性に基づいて、ヒト肝癌幹細胞を可視化した。肝癌幹細胞は特徴的な遺伝子シグネチャーを持ち、転移ニッチや再発予後を規定する可能性が示唆された。
索引用語 代謝活性, 活性酸素種