セッション情報 | シンポジウム10(肝臓学会・消化器病学会・消化器外科学会合同)肝発癌・進展機序研究に与える幹細胞学のインパクト |
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タイトル | 消S10-5:肝幹・前駆細胞の活性化を介した新しい肝発癌モデルの樹立とその解析 |
演者 | 遠藤 容子(京都大・消化器内科) |
共同演者 | 丸澤 宏之(京都大・消化器内科), 千葉 勉(京都大・消化器内科) |
抄録 | 【目的】 肝臓は自己再生能の非常に高い臓器であり、生理的条件下あるいは軽度肝障害では成熟した肝細胞の自己増殖により恒常性の維持が可能である。これに対して、肝細胞自身の自己増殖能で対応できないような重度の肝障害では、わずかに肝組織に存在する幹・前駆細胞が活性化し、肝再生に関与すると考えられている。しかしながら、肝障害時に活性化された肝幹・前駆細胞が肝発癌に果たす役割は不明である。今回、肝幹・前駆細胞の活性化と肝発癌を一連の病態として解析可能なモデルマウスの樹立を行った。 【方法】 DNA damage binding protein1 (DDB1)はE3ユビキチンリガーゼ複合体を形成し、p21、p27、Cdt1などの細胞周期、DNA複製に関与する基質の分解に関わる分子である。このため、増殖期にある細胞には必須の役割を果たしており、皮膚や脳神経でDDB1を欠失したマウスでは胎生致死となる。我々は、このDDB1の肝細胞特異的、あるいはPolyIC投与により肝臓誘導的に欠失させるマウスを作製し、肝臓の表現型の解析を行った。 【成績】 肝細胞特異的にDDB1を欠損させたDDB1F/F;Alb-Cre+/+マウスの肝組織ではp21蛋白の蓄積を認め、肝細胞の増殖が停止し、その結果、肝再生が促され、肝前駆細胞の著しい増生を認めることが分かった。肝前駆細胞をEpCAM抗体を用いて選択的に抽出し分化誘導刺激を加えたところ、in vivo、in vitroでこれらの前駆細胞が成熟した肝細胞に分化増殖することを確認した。興味深いことに、48週齢を経過したDDB1F/F; Alb-Cre+/+マウスには高率に肝癌が発生することが明らかとなった。 【結論】 肝細胞の増殖を抑制することにより、肝前駆細胞の活性化と増生が見られるマウスモデルを樹立した。このモデルの肝組織では幹・前駆細胞の活性化を介して肝発癌を認めており、肝癌発生起源や機序の探求に有用であると考えられた。 |
索引用語 | 肝幹細胞, 肝癌 |