セッション情報 特別講演(消化器病学会)

がん微小環境とがん幹細胞

タイトル 特別講演1:

がん微小環境とがん幹細胞

演者 宮園 浩平(東京大大学院・分子病理学)
共同演者
抄録  TGF-βは多彩な作用を持ったサイトカインで、細胞の増殖抑制、線維化の促進、上皮―間葉分化転換(EMT; epithelial-mesenchymal transition)などに密接に関与している。TGF-βはII型とI型と呼ばれる2種類のレセプターに結合し、主としてSmadファミリーのタンパク質を介してシグナルを伝達する。がんの進展の過程では、TGF-βはがん細胞自身あるいはがん微小環境に作用し、とくに進行したがんにおいてはその進展を促進する働きがあることも知られている。このため、TGF-βシグナルを抑制する薬剤の開発が進められており、TGF-βに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、モノクローナル抗体、I型レセプターキナーゼの作用を遮断する低分子化合物の開発などが進められている。本講演ではまずTGF-βのがん微小環境に対する作用、とくにEMTについて紹介し、後半で、スキルス胃がんのがん微小環境とがん幹細胞に対するTGF-βの作用を紹介する。
 がん微小環境においてTGF-βはEMTの誘導をはじめ多彩な作用を有する。EMTとは、上皮細胞が上皮としての形質を失い、間葉系細胞の形質を獲得する現象で、EMTでは細胞間接着が失われ、細胞の運動・浸潤能が亢進する。間葉系細胞に分化した細胞は組織の線維化を促進し、またがん細胞の形質転換にも寄与する。TGF-βはSnailやZEB1などの転写因子を誘導し、この結果E-cadherinなどの上皮マーカーの発現の抑制、N-cadherinなどの間葉マーカーの発現亢進に関与する。我々はがん細胞が放出するTGF-βが正常上皮細胞にEMTを誘導するさいに、FGF-2ががん細胞から放出されると間葉系細胞が活性化された線維芽細胞となり、その結果、FGF-2が放出されない場合に比較してがんの浸潤をさらに促進することを明らかにした。一方、スキルス胃がんにおいてはTGF-βはin vivoにおいて腫瘍の進展を抑制するが、これはTGF-βがスキルス胃がん細胞に作用してThrombospondin-1などの血管新生抑制因子の放出を促進する結果、腫瘍血管新生が抑制されるためであることを明らかにした。
 TGF-βはがん幹細胞に作用してその未分化性の維持に関与する。TGF-βのがん幹細胞に対する作用は、がんの種類や悪性度に影響されると思われる。我々はすでに脳腫瘍のがん幹細胞に対してはTGF-βががん幹細胞の未分化性を維持する作用を持つことを明らかにしている。一方、スキルス胃がんのがん幹細胞ではTGF-βはむしろ分化を誘導する作用があることを見出した。
索引用語