セッション情報 シンポジウム10(肝臓学会・消化器病学会・消化器外科学会合同)

肝発癌・進展機序研究に与える幹細胞学のインパクト

タイトル 肝S10-11:

肝癌幹細胞に対するBCAAの作用とmTORの関与

演者 西谷 しのぶ(味の素製薬(株)・創薬研究センター)
共同演者 矢野 博久(久留米大・病理学)
抄録 【目的】近年、肝細胞癌でも、EpCAMなどいくつかの癌幹細胞のマーカーが報告されており、癌幹細胞の分化誘導によって化学療法剤の効果を増強できる可能性も報告されている。今回、我々は、肝細胞癌の癌幹細胞の指標としてEpCAMを用いて、分岐鎖アミノ酸であるBCAAによる癌幹細胞を含む肝細胞癌への影響及び化学療法剤奏効率増加効果を検討した。【方法】ヒト肝細胞癌より樹立した肝癌細胞株HAK-1B、HAK4、およびHuh7を用いた。EpCAM抗体で染色し、アレイスキャンでEpCAM(+)細胞を検出し、分化マーカーであるCYP3A4 mRNAの遺伝子発現を解析した。さらに、HAK-1Bをヌードマウスに皮下移植して、5-FUとBCAAを併用投与した時の奏効率を5-FU単独群と比較した。【結果・考察】3つの肝癌細胞においてEpCAM(+)細胞が存在することが明らかとなり、そこにBCAAを添加するとEpCAM(+)細胞が有意に減少した。EpCAMとAFP遺伝子発現も抑制したが、CYP3A4遺伝子は逆に有意に発現増加しており、BCAAによる癌幹細胞の分化誘導が示唆された。そこで、5-FUを併用刺激すると、5-FU単独に比較して肝癌細胞のアポトーシスが有意に増加し、細胞増殖抑制の増強作用が認められた。このBCAAのEpCAM(+)細胞減少作用はmTORC1阻害剤であるRapamycinによって完全にキャンセルされること、またRhebを強制発現させmTORC1活性化状態にしたHuh7では癌幹細胞は有意に抑制され、その状態にBCAAを上乗せしてもそれ以上の抑制作用を示さないことから、BCAAはmTORC1を活性化することで癌幹細胞マーカー(+)細胞を抑制していることが示唆された。癌幹細胞から分化誘導した癌細胞は増殖能が高いため、化学療法剤の感受性が高く、奏効率増加に繋がると考えられるため、HAK-1B皮下移植担癌マウスを用いて、BCAAによる5-FUの効果増強作用を検証した。5-FUにBCAAを併用投与すると、5-FU単独投与に比較してより強く腫瘍増殖抑制作用を示し、またBCAA単独では腫瘍体積に変化がなかったことから、BCAA併用によって、5-FUの効果が増強されたことが示唆された。
索引用語 BCAA, Cancer stem cell