セッション情報 シンポジウム11(肝臓学会・消化器病学会・消化器外科学会合同)

肝疾患に対する先端医療

タイトル 肝S11-3:

次世代シーケンサーの肝疾患診療への応用~肝発癌のゲノム診断~

演者 池田 敦之(京都大大学院・消化器内科学)
共同演者 丸澤 宏之(京都大大学院・消化器内科学), 千葉 勉(京都大大学院・消化器内科学)
抄録 【目的】近年、様々な研究分野に次世代シーケンサーが導入され、ゲノム解析研究に活用されている。癌研究においては、癌の全ゲノムシーケンスを目的とした国際プロジェクトも発足し、その結果は既に公表されはじめている。一方、ヒト肝癌の特徴として、発生母地となる慢性肝疾患からの発癌リスクが高く、発癌の鍵となるゲノム異常は、既に早期から発生・蓄積していると想定されている。そこで、肝発癌過程において多段階に発生・蓄積しているゲノム異常の全貌を次世代シーケンサーで明らかにし、個々の症例での発癌前のゲノム変化の解析platformを構築することを本研究の目的とした。【方法】C型肝炎ウイルス(HCV)陽性肝硬変症例において、腫瘍発生を認めない非癌部肝組織から抽出したDNAを用い、全ての遺伝子の全エクソン領域の塩基配列を同定するwhole exome sequencing(n=4)、ならびに、HCV関連慢性肝疾患で変異感受性の高い遺伝子を選別したdeep sequencing(n=11) を次世代シーケンサーにより解析した。【成績】Whole exome sequence解析により、非癌部肝組織において遺伝子変異(20%以上の塩基変化)が平均644箇所で同定された。その大部分(56%)はアミノ酸変化を伴った塩基変化であり、これらのいくつかはヒト肝癌組織で特定されている遺伝子変異と共通の変化であった。エクソン領域に同定された変異を有する遺伝子群のpathway解析からは、細胞増殖、代謝経路に関与する遺伝子が多く含まれていることがわかった。deep sequencing解析からは、すでに肝発癌に至っている症例のHCV陽性非癌部肝硬変組織において変異が蓄積しており、検出された変異は肝癌組織と共通のものが多数認められた。【結論】HCV感染による慢性肝疾患を伴った肝組織では、多様なゲノム異常が潜在的に生成しており、蓄積した遺伝子変異が正常肝細胞の悪性化に関与しているものと想定された。臨床的な腫瘍診断前に、肝硬変組織に潜在・蓄積しているゲノム変化を早期にとらえることが、発癌予測診断に有用である可能性が示唆された。
索引用語 肝癌, 次世代シーケンサー