抄録 |
肝癌診療ガイドラインにおいて肝障害度A, Bで腫瘍個数が4個以上であれば塞栓や動注療法が推奨されている。さらに高度脈管浸潤を伴う進行肝細胞癌(HCC)の治療方針に関しては、附記として記されるのみでアルゴリズムから外れている。このような極めて予後不良である両葉多発HCCに対し、我々は低侵襲性高用量化学療法として経皮的肝灌流化学療法(PIHP)を開発し、その有効性を報告してきた。さらに有効性を高める外科的新治療戦略として、減量肝切除とPIHPを組み合わせた2段階療法(Dual treatment)を考案し、根治切除不能な両葉多発HCCでも中・長期生存を可能としてきた。1990年11月から2010年12月までに当施設で行ったDual treatmentにエントリーした84例ついて検討した。そのうち完遂できた71症例では局所制御率は70%、生存率は1年72%、3年35%、5年27%であり、MSTは24ヶ月と良好であった。合併症としては胆汁漏、難治性腹水、創感染と大侵襲手術にもかかわらず比較的軽微なもので、mortalityはゼロである。また両葉多発HCCの中でも門脈腫瘍栓(PVTT)が門脈本幹や対側にまで進展したいわゆるVp4 HCCでは、門脈血流低下による肝機能低下、難治性腹水、静脈瘤破裂などの合併症を誘発し、姑息的治療でさえ困難となる。したがって可及的速やかにPVTTを摘出し、時間的治療域を確保することが治療の成否を握る鍵となる。このようなVp4 HCCでも安全にかつ確実にPVTTを摘出しうるback flow pefusion (BFP) 法を考案し、さらに治療域を拡大してきた。また主要肝静脈根部の高度腫瘍浸潤 (剥離・テーピング困難) 例や、下大静脈の高度腫瘍浸潤(肝授動・脱転が困難)による切除不能例にはPIHPを先行させ、抗腫瘍効果が認められるや否や減量切除し、さらに術後再びPIHPを加える三段階療法も新たにスタートしている。さらに肝予備能や局在による治療限界をもたらす症例に対しては粒子線に切除、もしくはPIHPを組み合わせる治療戦略を企図し、実践している。これらの症例について具体的に術式などを供覧した上で神戸大学での集学的治療について述べる |