セッション情報 |
シンポジウム5(肝臓学会・消化器病学会合同)
NASH発症の分子機構と治療標的
|
タイトル |
肝S5-4:ヒト肝臓におけるToxic Lipidの探索 ― NASH病理およびインスリン抵抗性を規定する肝組織中脂肪酸組成 ―
|
演者 |
砂子阪 肇(金沢大・恒常性制御学) |
共同演者 |
篁 俊成(金沢大・恒常性制御学), 金子 周一(金沢大・恒常性制御学) |
抄録 |
【背景】肝臓の脂肪化はインスリン抵抗性と深く関連するが,細胞に蓄積した中性脂肪自体はインスリン抵抗性の原因とはならない.我々はコレステロール,パルミチン酸がToxic Lipidとしてインスリン抵抗性を形成することを実験的に示したが(Hepatology 2007, J Biol Chem 2009)ヒト脂肪肝中脂質組成と病態の関連は不明である.今回NAFLD患者の肝組織における脂肪酸含有量を測定し,その組成と構成比の特徴を明らかにするとともに同疾患の病態との関連性について検討した.【方法】対象は肝生検でNAFLDと診断された103例(単純性脂肪肝(SS) 63例,NASH 40例),および他疾患で肝切除を施行され病理検査上、正常肝(NL)と診断された18例.倫理委員会承認のもと肝組織中脂肪酸を抽出後,ガスクロマトグラフィー法にて画分し,肝湿重量1mgあたりの脂肪酸含有量を定量した.さらに各種脂肪酸組成やその構成比と患者背景,臨床検査値,肝組織像との関連性を検討した.【結果】肝組織における各種脂肪酸含有量はNL群<SS群<NASH群の順に高い傾向あり,NASH群ではSS群と比べ,パルミトオレイン酸(C16:1)含有量が有意に高値であった.肝病理および病態との関連に関し, C16:1/パルミチン酸(C16:0)は肝細胞ballooning,lobular inflammation,steatosisといったNASHの活動性と相関した(p<0.05).一方,ステアリン酸(C18:0)/C16:0比の低下はHOMA-Rと負相関を,グルコースクランプにおける糖注入率,QUICKIと正相関した(p<0.05).【結論】NL,SS,NASHでは,肝組織中脂肪酸含有量と組成が有意に異なっていた.C18:0/C16:0の低下がNAFLDにおけるインスリン抵抗性を反映し,C16:1/C16:0の増加が肝細胞脂肪化・炎症を最も反映した.本研究はヒト肝組織における脂肪酸組成の変化がNAFLDの病態形成に関与する可能性を示唆する.今後,長鎖脂肪酸伸長や飽和度に関与する酵素群の遺伝子発現を併せて解析することで,ヒトNASH発症を制御するToxic Lipidを標的とした新規治療法の開発につなげたい. |
索引用語 |
NASH, 脂肪酸組成 |