セッション情報 シンポジウム5(肝臓学会・消化器病学会合同)

NASH発症の分子機構と治療標的

タイトル 肝S5-8:

転写因子Nrf2は動脈硬化+高脂肪食誘発脂肪性肝炎の脂肪酸代謝修飾による肝脂肪蓄積を抑止し,肝病変の発症と進展を防御する

演者 岡田 浩介(筑波大大学院・消化器内科学DELIMITER筑波大大学院・スポーツ医学)
共同演者 蕨 栄治(筑波大大学院・環境分子生物学), 正田 純一(筑波大大学院・スポーツ医学)
抄録 【目的】酸化ストレスはNAFLDからNASHへの進展に重要な役割を果たす.我々は酸化ストレス応答に重要な転写因子Nrf2に着目し,MCD欠乏食誘発脂肪性肝炎に対してNrf2が防御を果たすことを報告した.一方,最近Nrf2は脂肪酸代謝の修飾にも関与するとの報告がなされている.そこで今回は動脈硬化+高脂肪食(Ath+HF)を野生型マウス(WT)とNrf2遺伝子欠損マウス(Nrf2-null)に投与してより脂肪性肝炎モデルを作製し,肝病変の発生とその進展に対するNrf2の役割を検討した.【方法】WTとNrf2-nullにAth+HFを1週間から24週間投与し,肝の病理組織の変化を観察した.また,各群の肝組織中性脂肪濃度と脂肪酸組成を測定し,脂肪酸代謝因子の発現レベルを解析した.さらに,肝Nrf2と酸化ストレス応答遺伝子の発現レベルを解析した.【成績】WT肝と比較してNrf2-null肝では,6週間と24週間投与双方でより重症の脂肪性肝炎像を呈していた.24週間投与では中性脂肪濃度も有意に増加していた.Nrf2-null肝ではオレイン酸(18:1n-9)の組成比が対照食とAth+HFの双方で有意に高値であった.また,Ath+HF投与のNrf2-null肝では,脂肪酸de novo合成とuptakeに関する因子の発現レベルは有意に高値であった.Ath+HF投与のWT肝では,Nrf2発現が対照食投与の3倍に増加し,Nrf2制御下の酸化ストレス応答遺伝子の発現が増加していた.一方,Nrf2-null肝ではこれら分子の発現誘導は軽微であった.【結語】Ath+HF誘発脂肪性肝炎において, Nrf2は脂肪酸代謝修飾による中性脂肪蓄積の抑止,酸化ストレス消去系分子の発現誘導を介して,その発生と進展に対して防御的役割を果たしていると推測された.Nrf2は今後のNASH治療における分子標的として重要であると考えられた.
索引用語 脂肪性肝炎, Nrf2