抄録 |
【目的】転写因子Nrf2は,多くのPhase II遺伝子の転写を促進し,酸化ストレスに対する細胞保護作用を示すことから,肝細胞の脂肪蓄積あるいはNASH進展抑制のための治療標的分子と考えられている.我々はこれまで,Nrf2の活性化物質であるカルノシン酸 (CA) が脂肪前駆細胞の分化を抑制したり,ob/obマウスの体重増加や肝の脂肪蓄積を抑制することを示してきたが,今回,その機序をin vitroおよびin vovoで解析した.【方法】1. in vivo実験:5週齢ob/ob マウスにCA 0.05%を含む食餌を5週間投与し,肝細胞内の脂肪蓄積,Nrf2, SREBP-1, PPAR-γの肝細胞核内移行,細胞質PPAR-g, Fatty acid synthetase発現量,MAPK, EGF受容体 (EGFR), AMPK, Acetyl CoA carboxylase (ACC) のリン酸化を検討した. 2. in vitro 実験:パルミチン酸 (Pal) 負荷によるHepG2細胞の脂肪化がCAにより抑制される現象を,EGFR,MAPK, AMPKそれぞれの特異的阻害剤(AG1478, U0126, compound C)が解除するかを検討した.さらに,この現象とPPAR-γ発現との関連を検討した.【成績】1. CA食はob/obマウスの肝細胞脂肪化を60%から10%に抑制したが,Nrf2の核内移行はむしろ抑制された.CA食は,PPAR-γ発現およびその核内移行を抑制し,EGFR, MAPK, ACCのリン酸化を亢進した.2. Pal負荷によるHepG2細胞の中性脂肪蓄積は,CAにより著明に抑制されたが,この現象は,U0126, AG1478により解除された.CAはHepG2のEGFR, MAPKリン酸化を促進した.Palにより,HepG2のPPAR-γの発現及びDNA結合は亢進したが,CAにより抑制された.CAのこの作用はU0126, AG1478により解除された.【結論】CAはEGFR/MAPK活性化およびPPAR-γ不活化を介して肝脂肪化を抑制することから,NAFLDおよびNASHの治療薬の候補と考えられた. |