セッション情報 シンポジウム5(肝臓学会・消化器病学会合同)

NASH発症の分子機構と治療標的

タイトル 肝S5-11:

NASHの肝病態に対するウルソール酸の有用性:モデル動物での検討

演者 池嶋 健一(順天堂大・消化器内科)
共同演者 今 一義(順天堂大・消化器内科), 渡辺 純夫(順天堂大・消化器内科)
抄録 【目的】メタボリックシンドローム(MetS)に伴うNASHの治療戦略は、脂肪肝の形成から肝の炎症・線維化に至る広範な病態をカバーすることが求められるが、現時点では有効な薬物療法は確立していない。私たちは、五環テルペノイドであるウルソール酸(UA)が肝星細胞特異的にアポトーシスを惹起し肝線維化の改善効果を発揮することを明らかにしてきた。そこで今回は、MetSに伴う脂肪肝に対するUAの代謝改善効果についてKK-Ayマウスを用いて検証した。【方法】8週齢の雄性KK-Ayマウスに高脂肪食を4週間投与後、高脂肪食を継続摂取させながらUA (100 mg/kg BW) を連日経胃管的に投与した。対照群にはvehicle(0.5%メチルセルロース)のみを同様に連日経胃管投与した。肝組織像を観察し、血清ALT値および肝組織中の中性脂肪(TG)含量を測定した。また、肝組織中での各種脂質代謝関連分子のmRNA発現をリアルタイムPCR法で検討した。【結果】全てのKK-Ayマウスが4週間の高脂肪食前投与期間に経時的に体重増加を認め、対照群ではその後の4週間でさらに10%の体重増加を認めたが、UA投与群は食餌摂取量が同等であるに関わらず逆に7%の体重減少を認めた(P<0.001)。UA投与群は体重減少以外は全身状態良好で、肝組織像はUA投与1週間後の時点で脂肪性肝炎の顕著な改善を認め、血清ALT値および肝組織中TG含量も有意に低下し、改善傾向は4週後まで維持された。また、UA投与群では肝組織中のSREBP-1cおよびfatty acid synthase (FAS) mRNAが有意に低下しており、enoyl-CoA hydratase (ECHD)およびacyl-CoA oxidase 1 (ACOX1) などのβ酸化酵素のmRNAも有意に減少した。【結論】UAは食餌負荷を継続しているにも関わらずKK-Ayマウスの肥満を抑止し、MetSに伴う脂肪肝の形成を有意に抑制することが明らかになった。以前の検討からUAは肝星細胞を標的とした肝線維化抑制および改善効果を有することも認められており、肝脂肪化から線維化進展に至るNASH病態への包括的な薬理学的アプローチに適した薬剤であることが示唆された。
索引用語 NASH, ウルソール酸