抄録 |
【目的】術前にindocyanine green (ICG) を静注し、手術中にICGの蛍光を赤外観察装置で画像化することで肝表あるいは切除標本上に肝細胞癌(HCC)を同定できる(ICG蛍光法)。本法では、高分化HCCではICGの取り込みが維持されるが胆汁排泄に障害があるため腫瘍全体が蛍光を呈し、低分化HCCではICGは癌組織に取り込まれないが腫瘍周囲の胆汁うっ滞がリング状に描出されると推察されている。上記の機序が解明されれば、化療薬の開発や効果予測に役立つだけでなく、ICGを感光剤として用いた光線力学的治療に応用できる。【方法】1) 切除組織片の遺伝子発現解析を行い、ICG蛍光法でHCC組織が蛍光を呈した13結節(T群)と周囲肝実質のみリング状の蛍光を呈した6結節(R群)との間で、非癌部肝組織に対するHCC組織の発現量の比(T/N)を比較した。2) ヌードマウスの皮下にヒトHCC培養細胞を移植し、ICG静注後に近赤外レーザー(823nm)を3分間照射した群(ICG+NIR+, n=10)と、ICG静注のみ (ICG+NIR-, n=8)あるいは近赤外レーザー照射のみ(ICG-NIR+, n=4)を行った群との間で腫瘍径の変化を観察した。【成績】1) T群ではR群に比べ、ICGの取り込みに関与するNACPとOATP8のT/Nが高い傾向を認めたが(中央値[範囲]; NACP, 0.93 [<0.01-1.8] vs 0.12 [0.01-0.47], P=0.02; OATP8, 0.54 [0.01-1.9] vs 0.06 [<0.01-0.89], P=0.16)、ICGの細胆管への排泄に関与するMRP2のT/Nには差がなかった。2)レーザー照射当日/3日/9日後の平均腫瘍径(mm2)はICG+NIR+群で217/249/1058、ICG+NIR-群で402/1164/4272、ICG-NIR+群で127/967/3596であり、ICG+NIR+群では他群よりも腫瘍の増殖が抑制されていた(P<0.01)。【結論】ICG蛍光法で癌組織が蛍光を呈すHCCでは、NACPとOATP8の発現が維持されているが、胆汁排泄機構に形態的な障害があるために、ICGが癌組織に滞留する。この現象を利用した光線力学的治療が、HCCに対して低侵襲で十分な腫瘍増殖抑制効果を発揮する新たな治療法として成立する可能性がある。 |