抄録 |
【目的】低用量アスピリン内服者が他の抗血栓薬を併用した際の胃十二指腸粘膜傷害の頻度を内視鏡的に検討する。【方法】脳神経外科と循環器科を標榜する一施設において、抗血小板薬、抗凝固薬内服者を対象にスクリーニングの上部消化管内視鏡検査を勧めた。アスピリンを含む二剤以上内服者は全例を対象とした。内視鏡所見は5mm以上の粘膜欠損を潰瘍、5mm未満をびらんとし、潰瘍及び潰瘍とびらんを合わせた粘膜欠損を評価項目とした。【結果】2008年4月に禎心会病院での対象者は1120例。内訳はアスピリン以外の抗血小板薬内服486例(NA群)、アスピリン単独内服503例(A群)、アスピリンを含む二剤以上内服131例(CT群)。2008年4月から2010年9月の期間に上部消化管内視鏡検査を行った症例はNA群101例、A群106例、CT群129例。CT群は死亡例2例を除く全例に施行した。CT群死亡例の死因は脳出血と急性心不全であった。3群からそれぞれ胃酸抑制剤併用者、NSAIDs併用者を除き、NA-群71例、A-群83例、CT-群84例として、潰瘍と粘膜欠損を比較した。平均年齢はNA-群73.6、A-群72.9、CT-群73.9。基礎疾患は脳梗塞が多くNA-群84.5%、A-群83.1%、CT-群80.9%。H.pylori抗体陽性者はNA-群66.2%、A-群71.0%、CT-群68.8%。潰瘍既往はNA-群2.8%、A-群3.7%、CT-群3.6%。有腹部症状者はNA-群14.1%、A-群18.1%、CT-群19.0%。背景因子は3群間に差がなかった。NA-群の潰瘍病変は1例(1.4%)、粘膜欠損は5例(7.0%)、A-群の潰瘍は6例(7.3%)、粘膜欠損は26例(31.3%)、CT-群の潰瘍は7例(8.3%)、粘膜欠損は27例(32.1%)であった。A-、CT-両群の粘膜欠損はNA-群に比べ有意に多かった。潰瘍病変はA-、CT-両群でNA-群に比べ多い傾向を示したが、有意差が得られなかった。CT-群はA-群に比べ、潰瘍、粘膜欠損とも有意に増加しなかった。【結語】アスピリン服用者には高頻度に内視鏡的な粘膜傷害を認めたが、アスピリンに他の抗血栓薬を併用しても、内視鏡的な粘膜傷害には変化なかった。 |