抄録 |
【目的】大腸憩室出血は当院のような一般病院では最近5年間で毎年30例以上が受診しており,そのアスピリン服用の関与と臨床的特徴を検討した。【方法】対象は2004~2009年に下血のため受診し,緊急下部内視鏡を要した大腸憩室出血142症例(平均年齢:66.9歳,男女比 94:48)である。年齢と性別をマッチングさせた上部潰瘍出血群(142例,平均年齢:66.9歳,男女比 94:48)とコントロール群(142例,平均年齢:66.9歳,男女比 94:48)を作成し,アスピリンの服用率を比較した。併せてNSAIDsと非アスピリン抗血栓薬の服用率も検討した。また,アスピリンを服用していた大腸憩室出血に関しては輸血の状況を検討した。【成績】アスピリンの服用(服用率(%),服用していた症例数)は憩室出血群で (38.7%,55例),上部潰瘍出血群で(18.3%,26例)、コントロール群で(7.1%,10例)であり,憩室出血群が従来より関連が深いとされている上部潰瘍出血群より有意にアスピリン服用の頻度が高かった。一方,NSAIDsの服用は憩室出血群では(16.2%,23例),上部潰瘍出血群で(31.7%,45例),コントロール群で(6.3%,9例)であり,従来より関連が深い上部潰瘍出血群で有意にNSAIDs服用の頻度が高かった。非アスピリン抗血栓薬の服用は憩室出血群で (23.2%,33例),上部潰瘍出血群で(23.9%,34例),コントロール群で(3.5%,5例)であり,憩室出血群と上部潰瘍出血群の服用率はほぼ同率であった。また,アスピリンを服用していた大腸憩室出血55例の輸血率と平均輸血量はそれぞれ34.6%と1.76単位, アスピリン非服用の大腸憩室出血87例では12.6%と0.56単位で両者ともにアスピリン服用の大腸憩室出血で有意に高かった。【考察】大腸憩室出血は,アスピリンが従来より関連が強いとされてきた上部潰瘍出血よりも更に関連が深い可能性が示唆された。アスピリンで引き起こる大腸憩室出血は非服用で発症する大腸憩室出血より出血量が多いことが推測される。アスピリン関連の胃十二指腸潰瘍はPPIによる予防が確立しているが,大腸憩室出血は治療も予防も確立しておらず,今後検討が望まれる。 |