抄録 |
【背景および目的】分岐鎖アミノ酸(BCAA)の投与による肝硬変患者の肝細胞癌発癌抑制効果が報告されている。一方、栄養素は宿主細胞内の遺伝子発現に質的、量的な変化をもたらす(Nutrigenomics)ことが知られているが、BCAA投与が肝癌細胞内のシグナル伝達経路にいかなる影響を及ぼすかについては明らかにされていない。そこで今回、肝細胞癌肝切除症例を対象にBCAA投与の意義について臨床的に検討した。【対象と方法】研究参加に同意の得られた、障害肝を併存する肝細胞癌肝切除40例を対象とした。経口BCAA顆粒製剤(ロイシン:イソロイシン:バリン=2:1:1.2)12g/日を術前30日から投与したBCAA群21例と非投与群19例に分け、切除肝癌組織を採取後にBCAAの標的分子であるmTORとmTOR関連シグナル伝達経路(Raptor, Rictor, Rheb, EIF4E, TSC1, S6K)およびアポトーシス関連遺伝子(Bad, bcl-2)の発現量をRT-PCR法で解析した。同時に、年齢、性別、慢性肝炎/肝硬変、BMI、ICG停滞率、糖尿病合併の有無、腫瘍径、癌分化度、血中BCAA濃度、BTR(BCAA/チロシン比)、インスリン抵抗性の指標であるHOMA-Rについても比較した。【結果】採取RNAの保存状態が不良であった2例を除く38例の解析では、両群で背景因子に差はないものの、血中BCAA濃度、BTRはBCAA群で有意に高く、逆にHOMA-RはBCAA群で低かった。GAPDで補正した遺伝子発現量は、BCAA群でmTOR、Raptor、アポトーシス誘導因子Badの発現増加を認め、また、Bad発現量は血中BCAA濃度およびRaptor発現量といずれも有意な正の相関を認めた。【結語】経口BCAA製剤の投与は、BCAA濃度の上昇、インスリン抵抗性の改善とともに、肝細胞癌内のmTOR関連シグナル伝達経路とアポトーシス誘導遺伝子発現を変化させるnutrigenomics作用を有することが示された。 |