抄録 |
目的:FDでは内臓知覚過敏や胃弛緩障害がその病態と考えられている.Barostat法はこれらが把握できるGold standardであるが,侵襲的かつ高価である.われわれは内視鏡検査施行時に送気刺激し胃内圧変化を測定することで内臓知覚や胃緊張度を把握,検討してきた.しかしプライマリ・ケアにおいて胃内圧を測定し,その知覚過敏・胃緊張度を測定することは困難である.そこで今回施行してきた検査結果より送気による閾値時間のみを抽出しプライマリ・ケアの領域で応用可能であるか否かにつき検討を与えた.また一部症例にて薬剤負荷を行っており同時に評価した.対象:FD54例(平均年齢49歳),NERD25例(54歳),健常者34例(56歳)である.方法:内視鏡検査施行時に送気(20ml/sec,抗コリン剤投与せず)による胃伸展刺激を行い胃部症状が出現するまで鉗子口から挿入した圧transducerで胃内圧変動を測定した.今回抽出したパラメータは閾値までの時間(sec)のみである.結果:(1)閾値到達時間:FD群45.6±20.2,NERD群53.5±13.9,健常群66.5±19.3secとFD群と健常群,NERD群と健常群間に有意差を認めた(P<0.05).閾値到達時の症状は胃部膨満もしくは胃痛であった。(2)NERD 4例に対してRabeprazole 10mg/day, 2週間投与;(前)49.0→(後)67.0 sec.FD 5例(PDS4, EPS1例) に対してMosapride 15mg/day, 2週間投与; 43.0→82.0 sec. FD 3例(PDS 3例)に対してItopride 150mg/day, 2週間投与;42.7→75.0 secといずれの薬剤も閾値時間の延長を認めた.結論:胃内送気刺激による閾値時間の把握は圧測定で得られる胃緊張度や知覚過敏までの評価はできないもののFD/NERD群と健常群との客観的評価(容量負荷反応)法として有用である可能性が示された.また,同法による閾値時間はプライマリ・ケア領域においても上部消化管内視鏡さえあれば容易く把握でき,かつ薬剤の反応性をも評価し得る点で意義深いと考えている. |