セッション情報 シンポジウム9(消化器病学会・消化器内視鏡学会・消化吸収学会合同)

プライマリーケアにおける機能性食道・胃疾患

タイトル 消S9-9:

機能性胃疾患診療におけるHospital Anxiety Depression Scale (HADS)の有用性

演者 洪 繁(名古屋大・消化器内科)
共同演者 後藤 秀実(名古屋大・消化器内科)
抄録 【目的】食後の心窩部痛や腹部膨満感などの不定愁訴を訴え消化器外来を受診する患者は非常に多い。少なく見積もっても症状のある患者の50%以上は、器質的異常が見当たらない機能性疾患であるとも報告されている。またこれらの患者では投薬により症状の改善が得られないことも多く、治療に難渋することが多い。近年、欧米人でも機能性ディスペプシア(FD)症状を持つ住民が一定の割合で存在し、これらの住民ではHospital Anxiety Depression Scale (HADS)質問票におけるAnxiety ScaleスコアとFD症状が相関する事が報告された(Aro et al, Gastroenterology 2009)。そこで我々は外来を受診する機能性胃疾患患者の心理状態をHADSで評価することで、日本人でも診断及び治療効果判定にHADSが有用かどうかについて検討した。【方法】外来を受診した患者のうちHADS質問票への回答を同意した患者を対象とした。対象はRome III分類によるFD患者とした。対照群として腹部不定愁訴のない消化器疾患患者(胃潰瘍、逆流性食道炎、慢性膵炎)及びうつ病で抗うつ剤を内服中の患者とした。【結果】全225人から394回のHADS質問票の回答を得た。不定愁訴を認めない消化器疾患(n=74)ではAnxiety Scaleスコア (AS) (平均±S.D.) 2.6±2.7, Depression Scaleスコア(DS) 2.1±2.2, HADSスコア(AS+DS) 4.6±4.4と有意に低く、反対にうつ病(n=18)ではAS 7.9±4.5, DS 8.2±4.3, HADS 16.2±8.3と高値であり患者心理状態把握におけるHADSの有効性が確認された。FD(n=49)ではAS 7.0±4.2、 DS 5.8±4.0、HADS 12.8±7.4と高く、FDのHADSスコアはうつに近いことが明らかとなった。Sulpiride (50-100mg/日)及び消化酵素剤(3-6Cap/日)を投与し、治療前後でスコアが得られたFD(n=28)では、AS 7.6→4.1, DS 6.6→3.1, HADS 14.2→7.3とスコアは有意に改善した。【結論】日本人FD患者でも、HADSスコアが高値であり愁訴の原因として心理的要因の強いことが疑われた。更に治療を行うことで症状の改善がスコアの改善として客観的評価が可能であった。
索引用語 機能性胃腸症, HADS