抄録 |
【目的】制御性T細胞(Treg)などの免疫抑制細胞群の増加は、肝細胞癌や大腸癌による免疫寛容の重要な機序である。Tregには胸腺由来のNatural Treg(N-Treg)と、末梢誘導型のIL-10産生性Tr1が存在する。またTIE2陽性単球(TEM)は、各種の癌において血管新生や免疫抑制への関与が示唆されている。本研究では、肝細胞癌に対する治療標的の同定を目指して、肝癌におけるTr1やTEMの意義と、細胞の分化誘導機序を明らかにすることを目的とした。【方法】HCV感染者176例(慢性肝炎CH, 63例; 肝硬変LC, 36例; 肝癌HCC, 77例)を対象とし、健康成人(NV, 55例)を対照とした。末梢血及び肝癌組織中でのN-Treg、Tr1、TEMの頻度を解析した。HCC群においては、切除やRFA治療前後で細胞頻度の変動を解析した。各細胞を分取し、PCR-Array、qRT-PCRによって機能関連分子のプロファイルを比較した。さらにCD4+T細胞やCD16-TIE2-単球と樹状細胞(DC)、肝癌細胞株との共培養を行い、Tr1、TEM誘導の系を樹立した。この系を用いて、分化や機能発現に関与する分子を同定した。【成績】HCC群では、末梢血Tr1、TEM頻度はNV、CH、LC群に比し高値であった。肝癌組織中のTr1、TEMは末梢血より高頻度であり、癌組織への集積性が認められた。HCC群において、切除やRFAで治療した症例では、Tr1、TEM頻度が低下し、肝内再発に伴って再上昇を認めた。Tr1ではLAG-3、IL-21, c-Maf、TEMではCX3CR1, CCR4などが高発現であり、機能関連分子として重要であった。DCと肝癌細胞株との共培養で、CD4+T細胞からTr1が誘導され、PD-L1、HLA-G、IL-T4のmaskingやノックダウンによって分化は抑制された。また、angiopoietin(ANG)の添加培養によってTEMにIL-10が誘導された。【結論】C型肝癌においてはTr1やTEMなどの免疫抑制性細胞群が増加しており、発癌や治療後再発と密接に関連していた。肝癌による各細胞の分化や機能発現にPD-L1/PD-1、HLA-G/IL-T4、ANG/TIE2経路が関与しており、治療標的としての有用性が示唆された。 |