セッション情報 シンポジウム13(消化器病学会・消化器内視鏡学会・肝臓学会・消化器外科学会合同)

炎症と消化器癌

タイトル 消S13-2:

胃発癌におけるASK1の役割―マウスモデルを用いた解析

演者 早河 翼(東京大・消化器内科)
共同演者 平田 喜裕(東京大・消化器内科), 小池 和彦(東京大・消化器内科)
抄録 【目的】胃の発癌・増殖にはまだ不明点が多く、胃癌に対する分子標的治療は確立されていない。ASK1はJNK・p38の上流で様々な刺激を伝達するMAP3Kであるが、我々はASK1が胃炎・胃癌組織で増加していること、cyclin D1の発現を介して胃癌の細胞増殖に関与していることを報告した。本研究では、胃発癌におけるASK1の役割について、マウスモデルを用いた解析と、ASK1の発現メカニズムの解析を行う。【方法】ASK1ノックアウト(KO)マウスを用い、胃炎の検討として、SS-1株感染モデルの検討を行った。胃発癌モデルとして、アルキル化剤MNU投与モデルの解析した。また、胃癌細胞株を用い、ASK1およびcyclin D1発現ベクターによる強制発現系の解析により、ASK1発現増加メカニズムの検討を行った。【成績】SS-1株の感染による胃炎粘膜において、ASK1の発現増加が認められ、ASK1KOマウスでは上皮細胞のcyclin D1の発現低下を認めた。MNU胃発癌モデルで作成した腫瘍部でも同様にASK1の増加がみられた。また、ASK1KOマウスでは腫瘍の減少が認められ、腫瘍部のcyclin D1の発現が低下していた。次に、転写因子E2F1の標的遺伝子としてASK1が存在すると報告されていることから、cyclin D1の活性化がASK1の発現に与える影響を検討した。H.pyloriおよびEGFにより、胃癌細胞株中のcyclin D1の発現が誘導され、それに伴いASK1の発現増加を認めた。cyclin D1の強制発現により、E2F1とASK1プロモーターとの結合が増強されることをChIP法で確認した。ASK1の活性化により、cyclin D1の発現を介してASK1自体の発現が増強されたことから、ASK1とcyclin D1による正のfeedback機構が存在すると考えられた。【結論】ASK1はcyclin D1の発現を介して癌細胞の増殖に関与しているだけでなく、feedback機構によりASK1自体の発現を増加させていた。このASK1-cyclin D1 feedback loopが胃炎組織、さらには胃腫瘍組織において細胞増殖に寄与していることが、in vivoで確認された。ASK1は今後胃癌の治療標的となりうると考えられる。
索引用語 胃癌, ASK1