抄録 |
【目的】近年、慢性炎症に伴う発癌過程で癌関連遺伝子への変異生成にDNA編集酵素AIDの異常発現の関与が報告されている。目的:HP感染に伴う胃炎進行度とAID発現の関連、除菌による胃発癌抑止の分子基盤を明らかにする。【方法】02-08年に上部内視鏡を施行し基準を満たした109例(HP陽性60,陰性49例)を対象とし、HP陽性例中48例は除菌後の評価も行った。体上部(U),体下部(M),前庭部(L)からの生検組織像を、Updated Sydney System(USS)で評価し、胃炎進行度を胃炎分布(前庭部優勢ant,汎pan,体部優勢cor)とOLGA stagingに分けた。AID発現は、免疫組織像からIntensity(Int)(0-3; 2以上陽性)とPercentage(0-4; 3以上陽性)に分け、両者が陽性の場合を発現陽性とした。p53発現は0-3の1以上を陽性とした。胃炎進行度との関連はExtent(Ext) score(L~UにおけるAID・p53発現の広がりを0-3に分類)で評価し、USSとの関連はAID Int scoreで評価した。【成績】1) 内視鏡萎縮重症度とAID・p53 Ext scoreは正の相関を示した(AID:ρ=0.52,<0.01;p53:ρ=0.65,<0.01)。組織学的胃炎分布は、ant,pan,corの順でAID・p53 Ext scoreは上昇し(AID:ρ=0.38,<0.01;p53:ρ=0.32,<0.05)、OLGA staging上昇に従いAID・p53 Ext scoreも上昇した (AID:ρ=0.40,<0.01;p53:ρ=0.41,<0.01)。胃内3か所で、USS scoreとAID Int scoreは有意に相関した(<0.01)が、相関係数(UML順)は萎縮(0.25,0.49,0.22),腸上皮化生(0.25,0.51,0.28)に比べ 、HP(0.62,0.55,0.51),好中球(0.67,0.56,0.40),単核球(0.63, 0.62, 0.41)において高かった。2) HP除菌後、胃内3か所でのAID・p53 scoreは有意に低下した(<0.01)。【結論】AID発現はHP感染の胃炎進行度と相関し、特にHP菌量や慢性活動性炎症程度と関連が深かった。除菌によりAID発現異常が軽減し、潜在的なp53異常細胞の減少を認めたことは、除菌による胃癌発生の抑止効果を裏付ける所見と考えられた。共同研究:Yi Liu,新保卓郎,渡辺英伸,丸澤宏之,千葉勉 |