セッション情報 シンポジウム13(消化器病学会・消化器内視鏡学会・肝臓学会・消化器外科学会合同)

炎症と消化器癌

タイトル 消S13-5:

持続炎症に伴うmicroRNA機能異常が原因となる消化器癌の病態解明

演者 吉川 剛史(東京大大学院・消化器内科学)
共同演者 大塚 基之(東京大大学院・消化器内科学), 小池 和彦(東京大大学院・消化器内科学)
抄録 【背景】microRNA発現低下が様々な臓器の発癌に関与すると報告されている。一方我々は炎症性サイトカインの存在下でmicroRNAの機能が減弱することを報告してきた。そこで持続炎症に伴う慢性的なmicroRNA機能の撹乱が炎症性発癌の一因となる可能性があるという仮説を立て検証した。【方法】microRNAの機能をみるためのレポーターコンストラクトと大腸癌細胞株を用いて、炎症性サイトカイン存在下でのmicroRNAの機能変化を確認した。癌遺伝子でありmicroRNA産生を抑制する機能を持つLin28はlet7によって発現が抑制されているが、炎症性サイトカインによるlet7のLin28発現抑制作用の変化をレポーターコンストラクトと蛋白発現量の変化で検討した。microRNAによって発現制御を受けるGFPコンストラクトを組み込んだレポーターマウスを作製し、AOM/DSSによる大腸炎症性発癌モデルを用いて慢性炎症に伴う発癌過程におけるmicroRNAの機能変化を検証した。並行して大腸炎症性発癌過程における大腸粘膜内のLin28の蛋白発現量を免疫染色で検討した。Dicer deficient miceとAOM/DSSモデルを用いて、microRNAの産生不全状態での易腫瘍性を検証した。【結果】炎症性サイトカインによってmicroRNAの機能は阻害された。その結果let7によるLin28の発現抑制作用が解除され、Lin28の発現量が増加した。in vivoにおける炎症に伴う腫瘍形成過程ではin vitroの結果と同様、炎症によってmicroRNAの機能が阻害されていた。実際に大腸粘膜においてLin28の発現が炎症性発癌の過程で増加していた。Dicer deficient miceではwildtypeのmouseに比較し大腸炎症性発癌モデルにおける腫瘍数の増加を認めた。この結果からmicroRNAの作用が減弱すると易腫瘍性を呈する可能性が示唆された。【結論】慢性炎症存在下ではmicroRNAの機能が減弱するため、microRNAの発現が減っているDicer deficient miceに類似した易腫瘍性を呈することが示された。これらの結果から持続炎症に伴うmicroRNAの機能不全は炎症性発癌の一因となることが示唆された。
索引用語 microRNA, 炎症性発癌