抄録 |
肝臓疾患には、ウイルス性、薬剤性、アルコール性、非アルコール性、自己免疫性など多様であり、また無症状キャリア、急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、がんと疾患の進行段階も多い。肝臓病の検査法も尿糞便検査、血液学的検査、生化学的検査、免疫学的検査、超音波検査、負荷試験、内視鏡検査、肝生検、CT、MRIなど複雑である。簡便、迅速かつ正確な肝臓疾患の診断法が望まれている。 我々は、東大病院と山形大病院で採取した9種類の肝臓疾患(HBVキャリア、B型慢性肝炎、HCVキャリア、C型慢性肝炎、C型肝硬変、C型肝細胞がん、薬剤性肝炎、単純性脂肪肝、NASH)および健常者合計237人の血清中の代謝物をキャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)法(1)で網羅的に測定した。その結果、各種の肝臓疾患患者で顕著に増加する10数個の新規物質を発見し、それらの物質がγ-グルタミルジペプチド類(γ-Glu-X:Xは各種アミノ酸やアミン)であることを特定した(2)。γ-Glu-X類の濃度は、肝臓疾患の種類によって異なり、幾つかのγ-Glu-X類を組み合わせると、237人の疾患名を100%の精度で診断できることがわかった。次に肝臓疾患でγ-Glu-X類が血中で増加する機序も解明した(2)。ウイルス感染や、炎症によって活性酸素が生成するが、細胞はグルタチオン(GSH)などの抗酸化物質を生成して対処する。肝臓疾患でGSHが生合成される際に、γ-Glu-X類はGSHと同じ酵素で生合成され、血中に排出されていた。HCV保菌者では、γ-Glu-X類の濃度はHCVキャリアが最大であり、慢性肝炎、肝硬変、肝細胞がんと疾患が進行すると減少した。γ-Glu-X類の濃度はGSH合成量を示しており、疾患が進行するとGSHの合成量が低下していることが示唆された。この新規マーカーによる診断法および各種の肝臓疾患と酸化ストレスの関係について議論したい。【参考論文】1) Soga, T., et al., J. Biol. Chem. 281, 16768, 2006.2) Soga, T., et al., J. Hepatol. in press. |