セッション情報 シンポジウム13(消化器病学会・消化器内視鏡学会・肝臓学会・消化器外科学会合同)

炎症と消化器癌

タイトル 内S13-10:

C型慢性肝炎組織に生じるミトコンドリア遺伝子異常と発癌に関する検討

演者 会澤 信弘(兵庫医大・内科(肝・胆・膵科))
共同演者 岩田 恵典(兵庫医大・内科(肝・胆・膵科)), 西口 修平(兵庫医大・内科(肝・胆・膵科))
抄録 【背景】ミトコンドリアDNA (mtDNA)は修復酵素を持たず、一旦生じた変異が保持されやすい。したがってmtDNAの異常は、細胞に生じたDNA傷害の蓄積を反映する可能性がある。これまで我々は、肝癌では多数のmtDNAに塩基変異が生じていることを明らかにしてきた。また我々は臨床的にIFNがC型慢性肝炎からの肝発癌を抑制することを明らかにしたが、一方でHCVの完全消失例(SVR)後長期間を経た症例でも肝癌の発症が認められることを報告した。今回C型慢性肝炎と肝癌症例を対象としてmtDNA変異の検討と、SVR症例における微細形態の観察を行い、肝発癌過程におけるミトコンドリア変異の役割について検討した。【方法】(1)HCV陽性肝癌の切除組織42例の非癌部(背景慢性肝疾患部)の組織と、肝生検により採取したC型慢性肝炎(非発癌症例:145例、肝癌既治療症例:13例)の組織を用い、mtDNAのうち最も変異が蓄積するD-loop領域の変異数を決定・比較した。(2) SVR症例に関し、肝癌発症例と非発症例に分けて光顕・電顕での組織所見とmtDNA変異について検討した。【結果】(1)肝癌症例の非癌部、肝癌治療歴を有する肝組織では、肝癌合併のないC型慢性肝炎例の組織に比してmtDNAの変異数が増加していた。 (2) SVR症例では、光顕レベルの異常が軽度であっても電顕観察では形態異常が認められ、特に発癌例では小胞体とミトコンドリアの変化が著明であった。またこの形態的な異常は、mtDNAの塩基異常に相関していた。【結論】C型慢性肝炎からの肝癌例の背景肝組織では、mtDNAの異常が多く認められた。またSVR症例の検討からは、HCVが消失に至っても電顕観察では形態異常が残存すること、特に発癌例ではミトコンドリアの強い形態異常とDNA変異の増加を認めることが判明した。以上からmtDNAの異常・変異蓄積は、SVR症例も含めC型慢性肝炎患者における高い癌化リスクの状態と関連することが示唆された。(共同研究者;兵庫医大肝胆膵外科学:藤元治朗教授、分子病理部門:辻村亨教授)
索引用語 肝発癌, ミトコンドリア遺伝子異常