セッション情報 シンポジウム14(肝臓学会・消化器病学会合同)

代謝性・遺伝性肝疾患研究の進歩

タイトル 肝S14-5:

C型慢性肝炎におけるhepcidin分泌不全の原因機序の解析

演者 藤田 尚己(三重大大学院・消化器内科学)
共同演者 諸岡 留美(三重大大学院・消化器内科学), 竹井 謙之(三重大大学院・消化器内科学)
抄録 【目的】Hepcidinは鉄増加に反応し主に肝細胞で産生・分泌され、腸管での鉄吸収を抑制する体内鉄調整分子であり、C型慢性肝炎(CHC)にみられる鉄過剰の原因因子として注目されている。近年hepcidin発現調整機構が解明され、それによると体内鉄動態がBMP6によりsensingされ、これが細胞表面のreceptor(BMP-R)に結合すると、Smad1/5/8のリン酸化に引き続くSmad4との結合による核内移行の結果、hepcidin promoter活性が上昇すると考えられている。今回CHCにおけるhepcidin発現調整機構を検討した。
【方法】対象は当科にて肝生検術が施行されたCHC101例(年齢=56.4±12.8歳。M/F=49/52例)。肝組織よりmRNAを抽出しreal-time PCR法にて定量した。更に血清中hepcidin-25をSELDI-TOF/MS法により測定した。対照として非C型肝疾患(non C) 68例(年齢=52.9±13.6歳。M/F=32/36例。CHB/PBC/NAFLD/AL/その他=21/20/10/7/10例)を用いた。
【結果】血清hepcidin値はnon C群に比しCHCで有意に低値であった(21.2±20.6 vs 29.2±19.6 ng/mL、P=0.01)。鉄過剰に対する相対的なhepcidin mRNA発現量もCHCで有意に低下していた(hepcidin/ferritin=6.8±4.4 vs 10.5±5.0、P<0.01)。BMP6、hemojuvelin、BMP-R1、BMP-R2発現量に有意差はなかったが、Smad4やその応答分子であるId1はCHCで低値であった(Smad4/ferritin=8.0±5.2 vs 13.4±8.1、P<0.01。Id1/ferritin=5.1±2.9 vs 9.1±4.2、P<0.01)。抑制系SmadであるSmad6や7の発現を検討するといずれもCHCで有意に増加していた(Smad6=1450±1510 vs 718±934、P<0.01。Smad7=2900±3010 vs 1570±1680、P<0.01)。
【結論】CHCにみられる鉄過剰は肝障害や肝発癌と密接に関連しており、除鉄療法によるALT低下効果のみならず発癌抑制の可能性も指摘されている。その鉄過剰の原因となるhepcidin分泌不全は、HCV感染肝細胞内におけるBMP-Smad signalingの調整異常が関与しており、今後、同機序を介した新たな治療法の開発が期待される。現在、Smad1/5/8のリン酸化や核移行等も検討中である。
索引用語 Hepcidin, BMP-Smad