抄録 |
【目的】C型慢性肝疾患では鉄代謝異常が存在する。われわれはHCV transgenic mouse(HCVTgM)において、酸化ストレス亢進によるhepcidinの転写抑制が、2次性の肝内鉄過剰を誘導し肝発癌の一機序となることを報告してきた。一方分枝鎖アミノ酸(BCAA)顆粒は、肝硬変、特に男性・肥満症例の予後を改善すると報告されるが、鉄代謝に影響を与えるか否かは不明である。今回BCAA顆粒がC型慢性肝疾患の鉄代謝異常を改善するかを明らかにする目的で以下の検討を行った。【方法】検討1:8週齢のHCVTgM(雄:n=6)に鉄過剰食と3%BCAA顆粒を与え、controlとして3%カゼインを用いた。6か月後に肝を摘出、肝内鉄濃度,hepcidin25,酸化ストレスの指標としてdROM,抗酸化能としてBAPを測定し,BAP/dROM比(酸化ストレスに対する抗酸化能)にて評価した。検討2:65歳以上,Alb3.6~4.1d/dl,血小板15万未満にBTRを測定し,同意が得られたBTR異常10例にBCAA顆粒を投与し0,3,6,12ヶ月目に,鉄関連マーカーとしてフェリチンとhepcidin25,酸化ストレスマーカーとして尿中8OHdGとBAP/dROM比を測定した。【成績】BCAAが投与されたHCVTgMではcontrolと比較し,肝内鉄濃度の抑制(218±15vs338±42μg/wet g),hepcidin25発現の亢進(348±27vs241±35),BAP/dROM上昇(27.6±2.1vs23.4±1.1)が有意な差をもって確認された(P<0.05)。BCAA顆粒を投与されたC型慢性肝疾患症例(平均年齢73歳,男7/女3)では、投与前と比較し12ヶ月目に尿中8OhdGが低下し(13.1±3vs9.4±1.5),BAP/dROMが上昇(6.0±0.6vs8.3±0.5)して酸化ストレスが抑制された。フェリチンは低下傾向,hepcidin25発現は上昇傾向を示し,hepcidin/フェリチン比では有意な上昇が確認された(0.056±0.01vs0.074±0.01:P<0.05)【結論】HCVTgMだけでなく、C型慢性肝炎症例においても、BCAA顆粒は酸化ストレスを抑制し、hepcidin発現を改善させ、肝内鉄過剰を改善する。今回の検討によりBCAA顆粒を長期間投与することで、C型慢性肝炎が惹起する鉄代謝異常を改善させる事が可能であり、肝発癌抑制の一機序になることが示唆された。 |