抄録 |
従来、肝脳疾患と呼ばれていた、成人発症II型シトルリン血症は、高アンモニア血症とシトルリン血症に伴い、行動異常、失見当識などの症状を呈する重篤な疾患として知られてきた。小林、佐伯らは、本疾患の原因遺伝子SLC25A13を特定し、その遺伝子産物をシトリンと名づけ、その、アスパラギン酸・グルタミン酸ミトコンドリア膜輸送体としての機能を明らかにしてきた。また、SLC25A13変異は、CTLN2の原因遺伝子であるだけではなく、新生児の多アミノ酸血症、黄疸、低蛋白血症など、多彩な症状を呈する新生児肝内胆汁うつ滞症(NICCD)の原因遺伝子でもあることを明確にし、シトリン欠損症という新しい疾患概念を打ち立てた。さらに遺伝子診断・変異の頻度・分布などを明らかにし、本疾患が日本、中国など、東アジア地域に広く高頻度に存在するだけでなく世界中にも本疾患が存在することを示してきた。一方、本疾患のモデルマウスを作成し、その病態を明らかにし、治療法の開発を目指して研究を進めている。本疾患で最も重要なことは、本疾患の高アンモニア血症が、主に糖質摂取によって生じることである。このことは、本疾患患者が糖質を嫌い、たんぱく質・脂質に富む食物を好む食癖でも推定できるが、事実、モデルマウスにおいて、ショ糖投与によって高アンモニア血症が生じることからも明らかである。そのため、他疾患における高アンモニア血症において広く用いられる治療法(低蛋白食、高糖質輸液、グリセオール投与など)は、本疾患の症状を悪化させ、死に至らしめるものであることが明らかとなった。以上の事実をすべての臨床医は認識しなければならない。 |