抄録 |
【目的】慢性の過剰アルコール摂取は二次性鉄過剰症の原因のひとつとして知られている.アルコール負荷動物モデルおいても肝内鉄過剰を介したフリーラジカル産生がアルコール性肝障害の増悪因子であることが示されている.このアルコール摂取による肝細胞内の鉄の過剰蓄積の機序のひとつとして,我々はアルコールによる肝細胞のトランスフェリン受容体の発現が亢進していることを臨床検体・肝細胞初代培養実験で示した.今回は別のメカニズムとして食餌鉄吸収調節にも関与する肝細胞で産生される鉄代謝調節因子ヘプシジン(Hepc)の発現について検討した.さらに最近,ALDにおいてもメタボリック症候群,糖尿病,肥満の合併が肝関連死亡率に寄与することが報告されていることから,ALD,NASH両方の病態進展の要素である鉄代謝調節異常に関して肥満と飲酒の相加・相乗効果に関して検討した.【方法】(1) ALD群47例および健常人ボランティア9例の血清中Hepc前駆体の濃度をELISA法にて測定した.(2) C57BL/6マウスにエタノール水を投与し,Hepc mRNAの発現を比較検討した.(3) レプチン欠損マウス(ob/ob)にエタノール水を投与しLC/ESI-MS/MS法を用いて血清中の活性型Hepc濃度を測定した.【成績】(1) 血清中Hepc前駆体の濃度はALD群で有意に低下していた.(2) マウスHepc mRNAの発現はアルコール負荷群で有意に発現が低下していた.(3) 血清中活性型Hepc濃度はob/obマウスやアルコール負荷群では有意にコントロール群と比較し低下し,相加効果を示した.【結論】トランスフェリン受容体の発現異常に加えて,アルコール負荷によってHepcの発現異常を介した鉄代謝異常が起きていることが示された.また,肥満を背景にした脂肪肝とアルコール負荷は相加的にHepc発現を抑制する可能性が示された.肝硬変を含めた肝線維化進展症例においては肝内鉄過剰を介した酸化ストレスの増強を抑制するために適切な節酒・禁酒指導,さらに過食・肥満に対する生活指導が必要であると考えられた. |