抄録 |
【目的】慢性肝疾患の亜鉛欠乏の病的意義を検討すると共に、亜鉛欠乏を示すC型慢性肝疾患に亜鉛製剤を長期投与し、発癌や肝不全への進展の影響を検討した。【方法】(1)2009年1月より7月の間に肝と栄養の会参加11施設において肝癌既往の無い肝硬変245例を登録し、血中亜鉛濃度と病態との関連を検討した。(2)1998年6月から2009年1月までに受診したC型肝硬変のうち、血中アルブミン3.5g/dL以下、亜鉛血中亜鉛70μg/dL以下の症例を無作為に以下の2群に振り分けた。B群:BCAA顆粒12g/day投与。BZ群:BCAA顆粒12g/dayと硫酸亜鉛100ー600mg/dayもしくはポラプレジンク150ー225mg/dayを投与した。サブ解析にて治療開始約1年後に血中亜鉛濃度が、80μg/dl以上に上昇した群をR群、それ以外はN群とし比較した。【成績】(1)血中亜鉛濃度は、Child-Pugh分類の進行とともに有意に低下した。肝予備能との関連では、血中アルブミン(r=0.57, p<0.001)、PT(r=0.39, p<0.0001)と有意の正の相関、アンモニア(r=-0.31, p=0.001)とは負の相関を認めた。またAFPとは弱い負の相関(r=-0.21, p=0.02)を認めた。(2)B群とBZ群、R群とNR群の両群に空腹時血糖以外の治療前背景に有意差は認めなかった。平均観察期間は、1152±698日。発癌・死亡に寄与する因子を多変量で検討したところ、N群(HR=6.866, p=0.018)、血中亜鉛低値(HR=0.921, p=0.034)が有意な因子となった。累積非発癌・非死亡率(Kaplan-Meyer)は、R群で有意に高率(p=0.0432 logrank)であった。経過中のアルブミン値の比較では、1・2・3年目の検討で、R群で、3.37±0.23・3.44±0.29・3.44±0.35、N群で3.38±0.32・3.22±0.39・3.02±0.32となり、3年目でR群が有意に高値を示した。【結論】血中亜鉛濃度は、肝硬変において肝予備能と関連しており、また亜鉛欠乏の見られるC型慢性肝疾患において、亜鉛投与により血中亜鉛濃度を80μg/dL以上にすることが、肝発癌・死亡抑制に寄与する可能性が示唆された。 |