抄録 |
【目的】高インスリン血症を特徴とするインスリン抵抗性は肝発癌の危険因子である。特に、C型慢性肝疾患患者はインスリン抵抗性が強く、その治療において様々な糖尿病治療薬が用いられる。糖尿病治療薬は血中インスリン濃度に影響を及ぼすことから、肝癌との関連が示唆されるが、両者の関連は未だ明らかではない。今回、我々は、2型糖尿病を合併するC型慢性肝疾患患者において、糖尿病治療薬と肝細胞癌との関連を検討した。【方法】2型糖尿病を合併したC型慢性肝疾患患者241名を対象とし、肝細胞癌合併の有無により、肝癌群 (n=138) もしくは非肝癌群 (n=103)に群分けした。登録時に収集したデータの横断的解析を行い、肝細胞癌と関連する要因を多変量解析にて検討した。また、対象者を血清アルブミン値3.5g/dL以上(n=139)と3.5g/dL未満(n=102)の2群に層別化し、肝細胞癌と関連する要因を検討した。【成績】多変量解析の結果、肝硬変・高齢・男性・低アルブミン血症といった既知の肝発癌リスク因子に加えて、インスリン製剤と第2世代SU剤の使用も肝細胞癌と関連する独立した危険因子であった(OR 2.97, 95%CI 1.29-6.82, P=0.01; OR 6.83, 95%CI 1.95-23.88, P<0.01)。層別化解析の結果、2世代SU剤の使用と肝細胞癌の関連は、アルブミン値3.5g/dL以上の群においてのみ認められた(OR 5.20, 95%CI 1.34-20.17, P=0.02)。一方、アルブミン値3.5g/dL未満の群では、ビグアナイド剤の使用と肝発癌に負の相関が認められた(OR 0.06, 95%CI 0.004-0.037, P=0.04)。【結論】インスリン製剤や第2世代SU剤の使用はHCV関連肝細胞癌と関連する独立した危険因子であった。また、上記の関連は栄養状態が保たれたC型慢性肝疾患患者により顕著に認められた。今後、肝発癌を視野に入れたC型慢性肝疾患に合併する糖尿病の治療法について検討する必要があると考えられた。本研究は森田恭代博士(長田病院)、白地美紀博士(筑後市立病院)との共同研究である。 |