抄録 |
【目的】消化器内視鏡におけるsedationは、本邦では偶発症のリスクや保険制度の問題などから十分には普及していない。一方、苦痛のない内視鏡を求める国民の声は高まっており、このような社会的ニーズに応えるためにはsedationに関する診療ガイドラインの作成が必要である。私どもはこれまでの経験をもとに、内視鏡診療におけるsedationの安全管理について検討した。【方法】当施設は200床の地域医療型民間病院で、7名の内視鏡医により年間約10,000件の消化器内視鏡検査を施行している。Sedationにあたっては十分なインフォームドコンセントの上で、1)パルスオキシメーター(連続)および血圧モニタリング(5分毎)を全例に、また症例によって心電図モニタリングを行い、2)検査中は看護師がベッドサイドで被験者の呼吸状態を十分に観察できる環境を整備した。また、3)スタッフ全員に使用薬剤と麻酔に関する定期教育を行った。内視鏡スタッフは、薬剤の投与量や被検者の鎮静状況、vital signの変化や酸素投与の有無などを記録し、次回検査の際に情報をフィードバック出来るようにした。【成績】2008年4月から2011年3月までに施行した消化管内視鏡のうち、鎮静剤を使用した25,018件(上部消化管内視鏡19,272件、下部消化管内視鏡5,746件)を対象とした。鎮静レベルはModerate sedationとし、前投薬はミダゾラム(0.05mg/kg)と塩酸ペチジン(35mg)の併用を基本に、心疾患合併例や高齢者ではミダゾラムの単独使用とした。安全性の検討では、低容量の酸素投与を必要とした血中酸素飽和度の低下(SpO2<90%)は、上部消化管内視鏡8.2%、下部消化管内視鏡3.5%にみられた。収縮期血圧の低下(<80mmHg)は、上部消化管内視鏡3.1%、下部消化管内視鏡5.8%にみられたが、補液処置により速やかに改善した。マスク呼吸や気道確保を必要とするケースはなかった。【結論】消化器内視鏡におけるsedationは、適切なモニタリングと被験者観察、スタッフ教育など統括的なリスクマネージメントによって、安全に施行することが可能と考えられた。 |