抄録 |
【目的】機能性消化管障害(FIGD)の病態生理は依然明らかでないが,その発症要因として社会心理的因子の関与が指摘されている.過敏性腸症候群においては性的虐待歴がその発症に関連していることが報告されているが,機能性ディスペプシア(FD)の発症における被虐待歴の関与はこれまで全く報告がない.そこで今回我々は,被虐待歴の頻度とディスペプシア症状発現における被虐待歴の関与を検討した.【方法】本調査は全国の20から79歳,男女の一般生活者を対象にインターネットを介して行った.Rome IIIに準拠したディスペプシア症状の有無と肉体的・性的・精神的虐待歴,虐待時期を各年齢層集団で聴取し,健常群(500人),FD医療機関非受診群(FD非受診群)(1000人),FD医療機関受診群(FD受診群)(1000人)に分けて検討を行った.【成績】被虐待歴は,健常群:FD非受診群:FD受診群で21.4%:44.0%:50.9%に認めた.その内訳として肉体的虐待歴は,健常群:FD非受診群:FD受診群で3.6%,7.5%,10.8%に認めた.性的虐待歴は,健常群:FD非受診群:FD受診群で0.6%,3.3%,5.5%に認めた.精神的虐待は,健常群:FD非受診群:FD受診群で17.2%,33.2%,34.9%に認めた.FD非受診群とFD受診群で健常者に比して有意に虐待歴を有していた.幼少期虐待歴が,最も症状発現に影響を与え,現時点の被虐待歴も症状発現に影響を及ぼしていた.ディスペプシア症状発現には,幼少期と現時点の被虐待歴がそれぞれ関与していた.医療機関受診群と非受診群の比較では,受診群に被虐待歴がより多かった.【結論】FDの発症に虐待歴が関与していた.今後FD患者診療にあたっては,虐待歴が症状発現に影響を与えている可能性を念頭において,診療に当たる必要があると考えられた. |