セッション情報 パネルディスカッション2(消化吸収学会・消化器病学会・消化器内視鏡学会合同)

過敏性腸症候群-消化吸収機能の側面から-

タイトル PD2-基調講演:

過敏性腸症候群: 管腔内環境と管腔外環境の病態

演者 福土 審(東北大大学院・行動医学DELIMITER東北大病院・心療内科)
共同演者
抄録 過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome; IBS)は、頻度が高い消化器病、かつ、ストレス関連疾患であり、疾病と人間の社会生活の関係を考える上で格好のモデルを提供する病態である。診断はRome III基準で代表される特徴的な症状と主要な器質的疾患との鑑別により行う。原因として、第一に消化管の管腔内環境の変化が注目されている。感染性腸炎によりIBSの罹患率が高まることが確実である。IBSでは常在の腸内細菌叢が健常者と異なるとする報告が増えている。腸内細菌の産物には、有機酸、毒素、抗原などが含まれ、それらの役割が解明されつつある。生体側の要因としては、消化管粘膜における肥満細胞増多を含むlow grade inflammationとそれによる神経の感作の機序が重視されている。また、生物学的markersが追求され、tumor necrosis factor-α、interleukin-1βなどのサイトカイン、神経再生に関与するbrain derived neurotrophic factorが病態に関与する可能性がある。病態に影響する第二の重要要因は管腔外環境の変化であり、それを判りやすく表現したのがストレスという概念である。corticotropin-releasing hormoneを代表格とするストレス関連性の脳内peptides、noradrenaline、serotonin、histamineなどの生体aminesは消化管にも豊富に存在し、知覚と運動だけでなく主に粘膜透過性の変化を介してIBSを増悪させる。非常に興味深いことに、これらの腸内細菌-消化管-中枢神経には動的な相互関係がある。ストレスは腸内細菌叢を変容させ、腸内細菌叢の変化がストレス応答に影響する。IBSに対する治療法の中でも、管腔内環境を改善させるものは、初期治療としての位置づけが高い。rifaximin、probiotics、lubiprostone、linaclotide、chenodeoxycholateなどがその具体例である。今後、IBSの遺伝子-環境相関を含めた研究が重要である。
索引用語 過敏性腸症候群, 管腔内環境