セッション情報 パネルディスカッション2(消化吸収学会・消化器病学会・消化器内視鏡学会合同)

過敏性腸症候群-消化吸収機能の側面から-

タイトル 吸PD2-6:

ストレス関連ホルモンであるCRFやUrocortin 1は、CRF1受容体を介してラット大腸蠕動運動を亢進し粘液分泌を促進させる-過敏性腸症候群の一病態メカニズムとして

演者 有賀 元(国立精神・神経医療研究センター・消化器科)
共同演者 天野 智文(国立精神・神経医療研究センター・消化器科), 大和 滋(国立精神・神経医療研究センター・消化器科)
抄録 【目的】ストレスよって下痢が誘発され、Corticotropin-releasing factor (CRF)が重要な役割を担っていることが明らかになった.この現象は過敏性腸症候群(IBS)の重要なメカニズムのひとつと考えられているが、その具体的な機序は十分には解明されていない。CRFやUcn 1が結腸組織片の収縮に直接与える影響とその経路、CRFが結腸管腔内の粘液分泌に与える影響を明らかにすることが、本研究の目的である.【方法】1) 摘出したラット結腸の組織片をオーガンバス内に懸垂し、その張力(phasic contractions) と電気刺激によって引き起こされる収縮 (off contraction) を測定し、これらに対するCRF、Ucn 1の影響を検討した.またその作用機序を明らかにするため、 tetrodotoxin (TTX)、 atropine、CRF1受容体拮抗薬であるantalarmin存在下でのUcn 1による張力・収縮の変化を評価した.2)麻酔下にラットの右半結腸の近位側・遠位側をチュービングし、管腔内をクレブス液で環流しながらCRF投与による粘液分泌量の経時的変化を測定した.また、NBI-35965(CRF1受容体拮抗薬)もしくはatropine前投与時の、粘液分泌に与えるCRFの影響を評価した.【結果】1) CRFおよびUcn 1は、結腸組織片の張力と収縮を濃度依存性に増強した.この働きは、antalarmin、TTX、atropineによって抑制された.2)CRF投与によって、結腸管腔内の粘液分泌量は容量依存性に増加した.この現象は、NBI-35965やatropine前投与によって、ほぼ完全に消失した.【考察・結語】本研究によって、CRFやUcn 1は中枢神経系を介さずに結腸のCRF1受容体に直接働き、輪状筋の収縮を増強しうることが示された.また、CRFはCRF1受容体を介して粘液分泌を亢進することも明らかになった.これらの結果より、IBS患者では、ストレス負荷時に分泌されるCRFやUcn 1によって大腸の蠕動運動や粘液分泌が亢進し、下痢を引き起こす可能性が示唆された.
索引用語 下痢型IBS, CRF