セッション情報 パネルディスカッション4(肝臓学会・消化器病学会・消化器外科学会合同)

肝疾患動物モデルとtranslational research

タイトル 肝PD4-4:

HCV JFH-1株のチンパンジー感染実験で得られた適応変異株の機能解析

演者 加藤 孝宣(国立感染症研究所・ウイルス第2部)
共同演者 椎名 正明(東北大大学院・成人看護学), 脇田 隆字(国立感染症研究所・ウイルス第2部)
抄録 【目的】C型肝炎ウイルス(HCV)感染は成人感染でも高率に慢性化する。この慢性化の機序は未だ明らかでない。そこで、HCV JFH-1株のチンパンジー感染実験において、生体内で遷延感染を起こした株での変異が、培養細胞内での複製増殖および細胞死に与える影響を検討することでこのウイルスの持続感染機序の解明を試みた。
【方法】培養細胞にて作製したJFH-1ウイルス、及びJFH-1株が分離された劇症肝炎患者急性期血清を二頭のチンパンジーにそれぞれ接種し、感染したHCV JFH-1株の全ORF領域の塩基配列を確認した。同定された変異をJFH-1株に導入し、それらの変異によりJFH-1株の機能がどのように変化するかを比較検討した。
【成績】培養細胞内での増殖能の検討の結果、チンパンジー内で適応変異を得た変異株では通常のJFH-1株に比べ、培養細胞内での増殖複製能は低いが感染性ウイルス粒子の生成効率が高く、その結果培養上清中に放出されるウイルス量が高値となった。さらにこれらのウイルスが感染している細胞のアポトーシスに対する反応性を検討した。チンパンジー感染実験で得られた変異株の感染細胞では通常のJFH-1株に比べ、TNF-αやFAS ligandなどのサイトカイン投与によるアポトーシス誘導が強く抑制されていた。この抑制効果は、適応変異株のキメラウイルスを用いた検討から、構造領域、非構造領域の両方の変異が関与していると考えられた。
【結論】HCV JFH-1株が分離された患者血清を接種したチンパンジーから得られた変異株は、培養細胞内では増殖効率は低かったがウイルス粒子生成効率が高く、その結果多くの細胞に感染可能であった。さらにこの変異株はサイトカインにより誘導されるアポトーシスの抑制作用を持ち、生体内での変異により獲得されたこれらの機能がHCVの慢性感染の成立機序に関わっている可能性が示唆された。
索引用語 アポトーシス, チンパンジー