セッション情報 パネルディスカッション4(肝臓学会・消化器病学会・消化器外科学会合同)

肝疾患動物モデルとtranslational research

タイトル 消PD4-8:

炎症刺激により発現誘導される遺伝子編集酵素ファミリーによる多段階肝発癌モデルマウスの解析

演者 奥山 俊介(京都大・消化器内科)
共同演者 丸澤 宏之(京都大・消化器内科), 千葉 勉(京都大・消化器内科)
抄録 【目的】
従来、癌研究において汎用されているモデル動物の大部分は、特定の発癌関連遺伝子のノックアウトや過剰発現により癌の発生を促すものである。これに対して、ヒトの癌細胞の発生は、正常な細胞中の様々な遺伝子に多段階的にゲノム異常が生成・蓄積することが中心的役割を果たす事が知られている。そこで、遺伝子変異導入活性を持つ分子に着目し、肝細胞に多段階のゲノム異常を生成した結果、肝発癌を来す2種類のモデルマウスを作成し比較解析を行った。
【方法】
遺伝子編集酵素であるAIDとAPOBEC2は、いずれもTNF-α等の炎症性サイトカイン刺激によりNF-κB依存性に肝細胞に発現誘導される。そこで、AID、APO2を全身に発現するTgマウスを作成し、表現型の解析、ならびに発癌過程に生じてくる多段階ゲノム異常の解析を行った。
【成績】
AIDを全身に発現するマウスは、平均90週齢で肝癌、肺癌、胃癌の発生を認めた。肝癌・肺癌・胃癌の各組織に生成・蓄積しているゲノム異常には臓器特異性があり、p53やβcatenin遺伝子は全ての腫瘍で共通して変異を生じていたが、肺癌ではc-myc、胃癌ではK-rasが高頻度にゲノム異常が発生していることが分かった。一方、AIDと相動性の高いAPO2を全身に発現したTgマウスは、AID Tgマウスと同様に肝癌と肺癌の発生が認められた。肝癌の発生を来したTgマウス、及び肝癌を発生しなかったTgマウスそれぞれの非腫瘍部肝組織での遺伝子異常の有無を検討したところ、p53には変化を認めなかったが、癌抑制遺伝子であるeIF4G2とPTENの転写産物に塩基変異が誘導されていることが明らかとなった。
【結論】
AID及びAPOBEC2は共に炎症刺激によって肝細胞に発現誘導されるが、そのTgマウスモデルの解析からは、個々の分子が特有の標的遺伝子に塩基変化を励起することが分かった。これらAPOBECファミリー分子を恒常的に発現するマウスモデルが、炎症性発癌を中心とする消化器癌の多段階発癌のメカニズムの解明に有用であることが示唆された。
索引用語 APOBECファミリー, 遺伝子変異