セッション情報 一般演題

タイトル 296:

HBs抗体陽性で同種骨髄移植を受け6年後に急性増悪を来たしたB型肝炎の一例

演者 川副 広明(佐賀医科大学)
共同演者 江口 有一郎(佐賀医科大学), 小林 由美(佐賀医科大学), 安武 努(佐賀医科大学), 水田 敏彦(佐賀医科大学), 尾崎 岩太(佐賀医科大学), 山本 匡介(佐賀医科大学)
抄録 【はじめに】同種骨髄移植は主に血液疾患に対して施行され,近年,症例数が蓄積しているが,HBsAb陽性の患者に対し施行された骨髄移植では,移植後再びHBsAgが陽転し肝炎を発症した報告が見られる。今回,我々は骨髄移植後6年で急性増悪を来たしたB型肝炎を経験した。【症例】40歳女性。急性前骨髄性白血病に対し96年に同胞をドナーとして骨髄移植を施行。レシピエントはHBsAg(-), HBsAb(+)でドナーはHBsAg, HBsAb, HBeAg, HBcAbすべて陰性であった。移植後約3年間,cyclosporin Aを投与されたが,経過良好であったためその後中止されていた。移植後約6年後の02年6月より徐々にトランスアミナーゼが上昇し,ウイルスマーカーはHBsAg 3515.2 U/ml, HBsAb 1 mU/ml, HBeAg 360.3 S/CO, HBeAb 0.0 %Inh, HBcAb 56%,HBV-DNA 4.7 LGE/ml, IgM-HA (-), HCVAb (-)でありB型急性肝炎が疑われ入院した。肝障害は徐々に増悪したがAST 866 IU/ml, ALT 1434 IU/mlをピークに自然軽快し,9月にはウイルスマーカーは,HBsAg 0.1 U/ml, HBeAg 0.1 S/CO, HBeAb 95.5 %Inhとなり肝炎は沈静化した。肝生検では,線維化の所見は明らかではなく,急性肝障害を示す所見であった。【考案と結語】本症例は,中和抗体であるHBsAb陽性の状態で骨髄移植前に強力な化学・放射線療法が施され,骨髄移植後は免疫抑制剤を投与されることで比較的長期間,免疫抑制状態にあったことが推測される。その間,肝細胞に潜伏したHBウイルスは再増殖し,今回,何らかの誘因により免疫が賦活され肝炎を発症したと考えられた。過去にもHBsAgが再陽転化し肝炎を発症した症例が報告されているが,多くは移植後数十日から2~3年に見られている。本症例における移植直後から今回の肝炎発症までの各ウイルスマーカーの推移や今回の誘因は明らかではないが,移植後約6年経過した後の肝炎発症であった。骨髄移植のみならず多くの臓器の移植医療が広まる中で,HBsAb陽性例への同種移植においては,長期に渡る肝機能の追跡が必要であると思われた。
索引用語 B型肝炎, 骨髄移植