抄録 |
症例1は66才、男性。2002年3月22日肝腫瘤、腹水のため当科に入院した。T.Bil 5.9mg/dl, Alb 3.3g/dl, Plt 11.1万/μl, PT 45%, HCV抗体陽性であった。肝S4/8に径約9cmの肝細胞癌(以下、肝癌)の所見と、下大静脈から右心房内へ連続する腫瘍塞栓を認めた。対症療法のみを行い2002年4月6日肝不全と循環不全により死亡した。剖検では右心房内は腫瘍塞栓と血栓で充満しており、肝臓以下の腹部の下大静脈は新鮮血栓で閉塞していた。症例2は60才、男性。肝腫瘤のため1998年1月30日当院消化器外科に入院した。T.Bil 1.2mg/dl, Alb 4.7g/dl, PT 69%, ICG R15 18.9%, HCV抗体陽性であった。肝右葉S7/8に径約12cmの肝癌の所見を認め、下大静脈から右心房内へ連続する腫瘍塞栓を伴っていた。low dose CDDP+5-FUによる肝動注化学療法を行ったが右心房内腫瘍塞栓は増大し、1998年4月3日右房内腫瘍切除術を施行した。その後再び肝動注化学療法を施行したが効果なく1998年9月13日肝不全死した。症例3は51才、男性。肝腫瘤のため2000年5月16日当科に入院した。T.Bil 1.1mg/dl, Alb 3.9g/dl, Plt 7.1万/μl, PT 71%, ICG R15 32.3%, HBs抗原陽性であった。肝右葉S8を中心に径12cm、左葉外側区に径9cmの肝癌の所見を認め、門脈本幹、下大静脈及び右心房内に腫瘍塞栓を認めた。積極的治療は行わない方針でUFT内服開始後に退院したが、食道静脈瘤破裂により2000年10月23日に死亡した。肝癌の右心房内腫瘍塞栓は比較的稀な病態であるとされてきたが、近年の画像診断の進歩により生前に診断される症例も増加してきた。しかしその治療は困難であることが多い。今回、自験例3例を中心に、右心房内腫瘍塞栓を伴った肝癌症例の病態と治療方針、及び予後について文献的考察を加え報告する。 |