抄録 |
症例は76歳女性.H14/3/10,突然の右季肋部痛を主訴に当院受診.既往症に高血圧と高脂血症を有した.腹部理学的所見上,右季肋部から側腹部に著明な圧痛を認め,検査所見では,WBC17600,CRP7.1と炎症所見を認めるのみで,便培養でも有意な病原性菌を認めなかった. 入院時腹部CT検査で上行結腸に著明な壁肥厚を認め,大腸内視鏡検査を施行.上行結腸半ばより口側へ境界明瞭で辺縁に強い発赤と浮腫を伴う不整形の浅い地図状びらん・潰瘍の多発を認め,さらにその口側の病変中心部では潰瘍は一部全周性であった.病変の口側境界では厚い白苔に覆われた縦走潰瘍を認め境界明瞭.盲腸部・回盲弁及び回腸末端には異常所見を認めず,病変部から多数箇所の生検・粘膜培養を施行.生検組織像では,壊死物質とghost-like-appearanceが多数見られたが特異的な所見を認めず,粘膜培養にても病原性菌は検出されなかった.注腸X線検査では,同部に約8cmにわたる拇指圧痕像と小barium斑の散在,広く浅い不整形のbariumの溜りを認めた.病変境界は明瞭,口側及び肛門側に異常所見は認めず,限局した病変といえた.第8病日施行の腹部血管造影では,虚血性大腸炎回復期の所見として妥当であった.絶食・高カロリー輸液で加療,病変は縮小し治癒傾向顕著となった.第21病日より摂食再開,退院後2ヶ月間の未治療期間の後施行した大腸検査にて瘢痕治癒像となった.本症例は上行結腸の境界明瞭な区域性病変で,強い浮腫と縦走傾向を認める連続性かつほぼ全周性の地図状潰瘍を主体とし,約2週間の腸管安静のみで著明な改善を認め,2ヶ月の未治療期間を経て治癒した.臨床像から感染性腸炎を完全否定は出来が便・大腸粘膜培養で有意菌は検出されず,右側結腸限局の虚血性大腸炎疑診例とした.虚血性大腸炎右側結腸限局例は,大血管異常や腎不全患者,血管異常を伴い易い膠原病症例などを散見するに過ぎない.本症例のごとく,基礎疾患にcontrolの良い高血圧,高脂血症しか有しない症例は極めてまれと考えられ,若干の文献的考察を加えて報告する. |