セッション情報 |
パネルディスカッション10(消化器病学会・肝臓学会・消化器外科学会合同)
消化器疾患における分子標的治療
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タイトル |
外PD10-5:消化器癌におけるROS制御機構をターゲットにした新しい治療戦略
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演者 |
石本 崇胤(熊本大・消化器外科) |
共同演者 |
佐谷 秀行(慶應義塾大・先端医科学研究所遺伝子制御部門), 馬場 秀夫(熊本大・消化器外科) |
抄録 |
癌の治療抵抗性や再発に癌幹細胞が深くかかわることが広く知られるようになり、癌幹細胞を標的にした治療法の確立が重要な目標として挙げられている。癌幹細胞を分離するためのマーカーの検索が盛んに行われている一方で、同定されたマーカーの機能的な役割についてはほぼ未解明のままである。ヒアルロン酸をリガンドとする接着分子であり主要な癌幹細胞マーカーであるCD44についても、その機能的な役割は不明であった。一方で、癌細胞内での活性酸素種(reactive oxygen species: ROS)の蓄積は酸化ストレスシグナルに関連するp38 MAPキナーゼや細胞周期の制御タンパク質であるp21を活性化し癌の増殖および進展を抑制することが知られている。我々は自然発症型胃癌モデルマウスを用いた生体レベルの解析により、マウスの胃癌組織においてCD44バリアント陽性の癌細胞は陰性の癌細胞と比較してROSのレベルが有意に低く抑えられていることを見い出した。さらに、この胃癌モデルマウスとCD44ノックアウトマウスとの交配により、CD44の欠損は胃腫瘍の増大に対し明らかな抑制効果を持つこと、その際にp38 MAPキナーゼの活性化およびp21の発現亢進が誘導されることを確認した。以上よりCD44の発現は、ROSを介した癌抑制シグナルからの回避を誘導することで、腫瘍増大を促進していることが示唆された。つぎに,CD44バリアント-xCTヘテロ二量体の阻害が癌治療のターゲットになり得るかをxCTに特異的な阻害剤であるスルファサラジンを用いて検討した。大腸がん細胞株HCT116細胞をヌードマウスに皮下移植してスルファサラジンの効果を検討したところ、スルファサラジンは腫瘍の抑制効果を持つことが分かった。また、一般的な抗癌剤であるシスプラチンとの併用実験では、xCTの阻害はシスプラチンの効果を増強させることが分かった。以上よりCD44とxCTによるROSの制御機構をターゲットとした治療を行うことは,癌細胞に酸化ストレスを誘導し腫瘍の抑制効果を発揮すると考えられる。 |
索引用語 |
CD44, ROS |