セッション情報 パネルディスカッション10(消化器病学会・肝臓学会・消化器外科学会合同)

消化器疾患における分子標的治療

タイトル 肝PD10-10:

TGF-β/Smadシグナルをターゲットとする肝線維症に対する分子標的治療の試み

演者 稲垣 豊(東海大・再生医療科学)
共同演者
抄録 【目的】これまで演者らは、TGF-βとその細胞内シグナル伝達物質Smad3による I 型コラーゲンα2鎖遺伝子(COL1A2)の転写促進機構を解明してきた(Gut 2007)。また、抗線維化作用を有するIFN-γの細胞内シグナル伝達物質としてYB-1を同定し、IFN-γ刺激により細胞質から核内へと移行したYB-1がSmad3に拮抗してCOL1A2転写を抑制すること(JBC 2004)、YB-1の過剰発現が実験的肝線維症を改善させること(Gastroenterology 2005) を示した。今回、YB-1の核内移行を促進する新規低分子化合物HSc025の肝線維化に対する抑制効果と、その作用機序を検証した。
【方法】HSc025の線維化関連遺伝子発現ならびに肝線維症進展に対する抑制効果を、それぞれ初代培養星細胞と四塩化炭素誘導肝線維症モデルを用いて検討した。また、各種のタンパク結合実験により、YB-1を細胞質に保持するanchor protein を同定するともに、HSc025とYB-1の結合様式、さらにHSc025がYB-1の核内移行を促進する機序を解析した。
【成績】初代星細胞の培養上清中にHSc025を添加すると、I 型ならびにIV型コラーゲンとフィブロネクチン遺伝子の発現を用量依存的に抑制した。四塩化炭素投与マウスにHSc025投与を行うと、血清ALT値と肝組織中Hydroxyproline含量が有意に低下するとともに、病理組織学的にも肝細胞壊死と空胞変性、ならびに線維化が有意に改善した。タンパク間相互作用の検討により、YB-1を細胞質内に保持するanchor proteinとしてpoly(A)-binding protein (PABP)を同定した。HSc025は、YB-1のC末端側のアミノ酸配列に直接結合し、YB-1とPABPの相互作用を阻害することで、YB-1の核内移行を促すことが明らかになった。
【結論】新規低分子化合物HSc025が、星細胞におけるCOL1A2転写ならびに実験的肝線維症の進展を抑制すること、またその作用機序を明らかにした。これらの知見は、細胞内シグナル分子Smad3をターゲットとする肝線維症に対する分子標的治療の可能性を示すものである。
索引用語 肝線維症, 分子標的治療