セッション情報 パネルディスカッション10(消化器病学会・肝臓学会・消化器外科学会合同)

消化器疾患における分子標的治療

タイトル 肝PD10-15:

肝細胞癌で高発現し抗アポトーシス作用するWilms’ tumor 1: 肝癌に対する治療標的の可能性

演者 上杉 和寛(愛媛大・3内科)
共同演者 広岡 昌史(愛媛大・3内科), 日浅 陽一(愛媛大・3内科)
抄録 【背景・目的】Wilms’tumor 1 gene (WT1)は、Wilms腫瘍の癌抑制遺伝子として同定されたが、様々な腫瘍で発癌遺伝子として報告され治療標的とされている。演者らは、肝細胞癌でWT1が高発現し、肝細胞癌の発癌、腫瘍の増殖に関与する事を報告した。その機序を解明するため、複数のヒト肝細胞癌由来細胞株、ヒト肝癌組織を用いてWT1の肝癌での生理活性を検討した。また、WT1エピトープペプチドを作成し肝癌患者を対象に第I/II相の医師主導型臨床試験を行い、WT1が肝細胞癌の治療標的となり得るかを明らかにする事を研究の目的とした。【方法】肝細胞癌細胞株にWT1発現plasmidおよびsiRNAを用いてWT1発現の変化と癌関連蛋白との関連を解析した。PCRアレイで同定した遺伝子のmRNA、蛋白発現をreal-time RT-PCR、Western Blotで同定した。アポトーシスアッセイ、臨床サンプルを用いた検討も行った。また、HLA-A*24:02,A*02:01,A*02:06と高結合するWT1ペプチドをGMPグレードで合成し、愛媛大学病院臨床倫理委員会の承認後、TACEを繰り返し施行している局所療法適応外の肝癌患者18例に投与して安全性、治療効果を評価した。【結果】肝細胞癌株を用いたPCRアレイで、複数のアポトーシス関連遺伝子を同定した。アポトーシスアッセイによりWT1は抗アポトーシス作用を有し、その作用にデスシグナルの関与が考えられた。これらの遺伝子群はヒト肝癌組織および非癌肝組織においてもWT1発現量により変化していた。WT1ペプチドを用いた臨床試験では、grade 3以上の有害事象はみられなかった。治療後3ヶ月で4例に腫瘍進展がみられなかった。【結論】肝癌で高発現するWT1は抗アポトーシス作用をもつ。WT1は、肝発癌、腫瘍進展に関わり、他の腫瘍と同様に肝細胞癌においても治療標的となり得る遺伝子であると考える。肝癌患者に対するWT1ペプチドを用いた免疫治療は安全に施行でき、今後更に治療効果を上げるための投与法、適応症例選択の工夫が必要であると考える。(共同研究者: 高知大学免疫学教室 宇高恵子)
索引用語 肝細胞癌, WT1