セッション情報 パネルディスカッション12(消化器病学会・消化器内視鏡学会・肝臓学会・消化器外科学会合同)

切除不能進行消化器がんに対する治療選択

タイトル 消PD12-4:

分子標的治療薬導入による胃癌化学療法の新展開

演者 室 圭(愛知県がんセンター中央病院・薬物療法部)
共同演者
抄録 切除不能進行・再発胃癌を対象にしたわが国の第III相臨床試験に関して、90年代前半に行われたJCOG 9205試験(5-FU単独 vs. 5-FU+cisplatin vs. UFT+MMC<途中から脱落>)の5-FU単独群での生存期間中央値(MST)は約7ヶ月であり、90年代後半から2000年代前半にかけて行われたJCOG 9912試験(5-FU単独 vs. CPT-11+cisplatin vs. S-1)の5-FU単独群でのMSTは約11ヶ月であった。年齢、性、Performance Status、肉眼型、組織型、胃切除の有無などを調整してもハザード比0.74(95%信頼区間;0.56-0.99)と明らかにJCOG 9912試験の5-FU単独群の成績が良好であった。同一の一次治療であることから、この差は、90年代後半から2000年代前半にかけて二次治療以降の成績が延びたからにほかならない。つまり、90年代前半当時と比べて、90年代後半以降にS-1、CPT-11、taxane系が新規に導入されたことで、特に二次治療以降において治療選択肢が増えてきたことが要因であろう。しかし、2001年にPaclitaxelが承認されて以降新薬の承認はない。それ故か、当院での年代別生存成績において、2001年~2005年と2006年以降で全く差を認めず、この10年間で胃癌化学療法の進歩がみられない現状が浮き彫りになった。大腸癌、肺癌で臨床導入されているベバシズマブの胃癌での可能性に期待が高まったが、AVAGAST試験では残念ながら全生存期間の延長は認められなかった。そんな中、HER2陽性胃癌を対象にしたToGA試験において、従来の標準的化学療法にトラスツズマブを上乗せすることによる明らかな生存期間の延長が認められた。MSTが化学療法単独(5-FU+cisplatinもしくはカペシタビン+cisplatin)群で11.1ヶ月、化学療法+トラスツズマブ群で13.8ヶ月であり、優越性が検証された(ハザード比0.74,95%信頼区間0.60-0.91,p=0.0046)。乳癌ではHER2をターゲットにした薬剤が次々と開発され有望な臨床試験結果が得られていることからも、今後の胃癌治療においてもHER2陽性という新たなカテゴリーによる個別化治療の実践と治療成績向上に期待がかかる。
索引用語 胃癌, 分子標的治療薬