抄録 |
【目的】食道sm癌に対し内視鏡治療が選択される機会は、sm1癌に対する相対的適応や術前診断を粘膜癌と誤診していた場合などがある。病理学的にsm癌であることが判明した後に、追加治療の適否を検討することとなるが、全身状態や他癌の合併などによりその判断は時に困難である。今回、初期治療として内視鏡治療が選択された食道pT1b症例を解析し、追加治療の有無やその内容の妥当性や予後を明らかにすることを目的とした。【方法】1990年から2010年までに当院で内視鏡切除を行い、病理学的に深達度がsmであることが確認された食道扁平上皮癌症例100例を対象とした。内視鏡治療後、外科切除を受けた群(S群)、化学放射線療法もしくは放射線療法をうけた群(C/R群)と追加治療を行わなかった群(F群)に分類し、臨床病理学的因子や再発の有無、予後などにつき比較検討した。【成績】S群は21例、C/R群は44例、F群は35例であった。平均年齢は、S群、C/R群、F群でそれぞれ63.0、64.3、69.1歳とF群が有意に高齢であった。臨床的深達度は、S, C/R, F群でm2/m3/sm1/sm2の割合が8/9/1/3, 11/16/10/7, 12/12/4/7と大きな差は認めなかった。病理学的深達度はS, C/R, F群でsm1/sm2の割合が, 3/18, 11/33, 17/18であり、F群でsm1の割合が高かった。脈管侵襲については、3群で有意な差は認めなかった。S群において、リンパ節転移を病理学的に認めた症例は3 / 21 (14.3%)であった。平均観察期間は、S, C/R, F群でそれぞれ53.8±45.1, 30.8±36.7, 39.5±35.2ヶ月であり、それぞれの5年粗生存率は、100 %, 67.1 %, 63.1 %であった。再発率はS, C/R, F群でそれぞれ 4.8% (1/21), 6.8% (3/44), 5.7% (2/35)であった。【結論】患者背景に差はあるものの、初期治療として内視鏡治療が行われた食道pT1b症例のうち、追加治療として手術を行われた群は予後良好であった。ただし、いずれの群も遺残・再発率は比較的低率であり、治療内容の選別にあたっては、今後更なる検討が必要と思われた。 |